楽園の子供たち


島には掟がある。

泉の水を飲んではならない。
島を出てはならない。
島民を除き島に立ち入ってはならない。
神の扉を潜ってはならない。
診察を受けなくてはならない。

七歳のフカミにとって、掟は絶対のものだった。

ホシンの省吾。
同じ年頃の少女、美空。

――二人に出会うまで。

【本誌 裏表紙より】

 青空と海が開放的な表紙が、思わず目を惹く一冊です。
 手作りのコピー本とは思えないほどしっかりした作りで、これを無料で配布されるか…と感嘆です。こちらのサークル様の頒布物は全てお手製ということで、毎回これを作られる労力を考えるとぽっかり口が開いてしまいます。

 そんな装丁からドキドキとページを繰ると、思いのほか閉鎖的な雰囲気が醸し出され、そのギャップに驚かされます。読み進めていくと、ある島に住む少女の視点で物語が続き、どうにも舞台になっている離島は世間一般と(完全ではないものの)隔離された世界で、独自の文化を持っていることが判明していきます。

 そこに現れる、主人公・フカミと、彼女に瓜二つの少女・美空、そしてフカミの幼馴染の少年・ショウゴと同じ名の青年・省吾。深くを語らないまま進行する物語の中に見え隠れするミステリアスな事実に、冷たい指でそっと背中をなぞられるような怖ろしさを感じます。物語の終盤、美空とショウゴがひょんなことから足を踏み入れる“神の扉”に記されている、どこかで見たことあるようなマーク…それに気づいた時は、心底ヒヤリとさせられました。設定を明示せず、じわりじわりと読み手に沁み込んでくる語り方が巧妙で、勉強させて頂きました。

 長編作品の第一章ということで、役者が揃い舞台の全貌がおぼろげに見えたところで、第一巻は幕を引きます。“楽園の子供”であるフカミがその楽園の“実態”を知った時、何が起こるのか…第二章もとても楽しみです!


発行:Hally-Project
判型:新書版 
頒布価格:無料配布
サイト:Hally-Project
レビュワー:世津路 章