猫と弁天/アヤメさま、宝船に乗る(5)


「はるか古来より大和の国を護りしは、民どもの祀る神仏なり。されど現
代、民どもの心、神仏より離れ、新しき神の生まれることなし…」
東京弁天シリーズは、そんな世界で、ようやくお生まれになった「平成の
弁才天」、アヤメさまの成長物語です。
室町時代や江戸時代生まれの先輩方に厳しく指導され、時には笑い、時に
は泣きながら、それでも前を向いて進んでいく、これは我々自身の物語で
もあります。
ヒロイン☆ふぇすた!サイトより)

※過去の感想はこちら
 ・猫と弁天/アヤメさま、宝船に乗る(1)
 ・猫と弁天/アヤメさま、宝船に乗る(2)
 ・猫と弁天/アヤメさま、宝船に乗る(3)
 ・猫と弁天/アヤメさま、宝船に乗る(4)

『東京都は墨田区にお住まいの、中学一年の女神さま』、この説明文だけでガシっと心を鷲掴みにされました…多分ご同様の方も多いはず。そしてガシっとされた未読の方はお読みになってまず間違いありません。

 あらすじを見ただけで独特な、でもどこか柔らかな世界観が感じ取れました。わくわくしながら読み始めたら、期待通り温かく物語が、丁寧な文章で紡がれています。この物語を読んでいると、弁才天のお姉様がおひとり頭の中におわしになって、優しく語り聞かせてくれるような気がしてきて、大層癒されました。

 そうして描かれる平成生まれの弁才天・アヤメさま物語は、アヤメさまの日々を、ほのぼのと、ときに可笑しくこちらを楽しませてくれます。ですが、それだけで終わらないのもこの物語の凄みだと思います。アヤメさまが遭遇する出来事の中には、私達が生きる現実と同じでやるせなく、いらだたしく、胸を焼かせるようなものもあります(『宝船に乗る』では、それ以上にもっと凄惨な事態も)。そんな中、神様でありながらまだ幼いアヤメさまがそうした事態に向かい合っていく姿は、とても心が打たれます。『猫と弁天』で、(止むを得ない事態だったとはいえ)人間に怒りをぶつけてしまったことを悔やむアヤメさまが、『宝船に乗る』で“神様”の役割を改めて知り、お仕事に勤しむのには、じんとしました。

 アヤメさまがメインのお話ですが、後半の『宝船に乗る』でおわしになる他の神様もしっかりとしたキャラクターがあって、色々気になります。毘沙門さまとサクラねえさまの過去の話なんか、最高に読みたいです…ね…!

 続編の『ブルー・オ・ブルー』は未読ですので、ぜひ入手次第読みたいです。今後とも、作者・大和様の作品を楽しみにしております。


発行:宝来文庫
判型:A5 78P
頒布価格:500円
サイト:だぶはちの宝来文庫
レビュワー:世津路 章