たちきれはなし


 上方落語の傑作「立ち切れ線香」を原作に、上方の花街を舞台にした人情と悲恋の物語。
 旦那に裏切られ絶望の闇に堕ちた北新地の芸妓・小絹は、南地の紀ノ庄の娘芸者・小糸とのふれあいの中で次第に生きる希望を取り戻していく。しかしある時から、小糸は船場の若旦那との恋に溺れていく。かつての自分を小糸に見出す小絹はしかし、その恋を止めることは出来なかった。
それが、悲劇の始まりとも知らないで――(創作文芸見本誌会場HappyReadingより)

 まず何よりもひしひしと感じるのは、上方弁の本当の美しさである。原作を上方落語の傑作「立ち切れ線香」に採るだけあって、登場人物たちの言葉遣いのなんと活き活きとしてきらめいていることか。うっとりとした今はなき「江戸の世の上方」の幻想的な世界に浸ることができる。ここに表現されたのは、男と女の愛憎というより、失われた古き良き時代への憧憬といってもいいだろう。それほどに、小絹・小糸の住む世界は美しい。だからこそこの物語は、色鮮やかなほどに哀しい。哀しくてたまらない世界だ。
 上方落語の事前知識は必要ない。とにかく本文の美しい上方弁に身をゆだねればよい。極めて読みやすい作品に仕上がっている。


発行:タマキブランド
判型:A5 44P 
頒布価格:500円
サイト:たまくしげ

レビュワー:唐橋史