総督と画家 孔雀の羽飾りの帽子をかぶった男のヴァニタス


17世紀初頭、東アジア交易によって黄金時代を迎えたオランダの都市デルフト。
裕福な商人の子でありながら、駆け出しの肖像画家として工房に出入りするクラースは、バタヴィア総督ヤン・ファン・アメルスフォールト伯爵に雇われて彼の肖像がを手がけることになる。ところが「海賊」とあだ名される彼の評判は頗る悪く、クラースもまた大いに振り回されるのだが、その意外な一面を知ったとき、二人は身分や立場を越えて心を通わせていく。
オランダ絵画をモチーフにした物語。(Amazon.紹介頁より)

タイトルのストレートさとサブタイトルの妙のあわせもつ、複雑な文(あや)に魅かれて購入しました。おそらく、非常に巧妙精緻な仕掛けが幾つかあるはず、と期待して。

読み始めてすぐ直感が外れなかったと微笑んで、あとは一気にラストまで、なんと贅沢なおはなしだろうとうっとりと、物語世界に引き込まれました。
では、贅沢とはなにをさすのでしょうか。物語の背景には大航海時代、主人公の画家としての夢を軸にして、それぞれに何かを抱えている家族、同じ夢をもつ友人、師匠、さらには求愛者、そして主人公の雇い主である人物は彼らの生きる世界そのものを表わしてあまりある「総督」が絡みます。その他にも、さまざまに表情豊かな人間たちがそこにいます。そんななか、画家と総督、ふたりの魂の交流を作者は丁寧に、それこそ絵筆で描くようにしてうつしとっていくのです。しかも、その場所に配される事物にはすべて「意味」が付されている。それらはオランダに繁栄をもたらした東洋の艶麗豪華な文物たち──そのなかにはこの国、日本のものが含まれているのは、このはなしの本家のほうへの目配せだけでしょうか? オランダと日本、双方とも華々しい興隆を味わったことのあるふたつの国です。そこを並べ渡してみる大きな視線を感じずにはいられません。

ここでひとつ、西洋絵画における「孔雀」の意味をお伝えしたい! 一般に、静物画(ヴァニタス)における孔雀は虚栄や豪奢をさすものです。しかしながら、宗教画においては不死や永遠の命をもさすことがあるのだと。

さて、そんなことを思い出してしまったわたしの「妄想」はさておいて、この小説は『黒南風の八幡~隻眼の海賊と宣教師の秘宝~』のスピンオフ作品とのこと、そちらを拝読したくなりました!
大航海時代へとタイムスリップできるような素晴らしい小説、とても贅沢な時間を過ごすことができて嬉しいです☆


発行:史文庫
判型:B6 124P 
頒布価格:600円
サイト:史文庫

レビュワー:磯崎愛