宇宙おきらく所沢


 女の子に振られ、大学に落ち、所沢のアパートで一人暮らす杜若実篤(かきつばたさねあつ)は所沢が粉々になり、地球が崩壊する夢を見る。夢から目覚めた時、実篤の前にはピンクの髪とステージ衣装のようなひらひらを着た女の子が浮いていた。驚愕の後に彼女は「私は(要約すると)宇宙人」といい、実篤が適当につけた「宇宙」と名乗って実篤と同棲を始めるが……

 本の裏にも書いてある。極太のスケールと地元生活の物語、と。その言葉で言い尽くされてしまっている感もなきにしもあらず、宇宙人と自称する淡々系巨乳少女・宇宙と実篤を中心に進む日常系非日常。宇宙という実篤の適当なネーミングもそうだし、宇宙人とコンタクトして、その宇宙人と日常生活というゆるゆるな展開もそうだ。

 設定はかなり綿密で壮大、物語はどんぶりでちんまり。実篤と宇宙がお互い見えない程度に離れてしまうと地球が崩壊するというのにフットサル&合コンという、どっかにありそうな日常と「宇宙開闢の奇跡に等しい確率で開いた多次元宇宙の相似生的実在認識空間の相対性体」。なんじゃそりゃ、って突っ込んだら負け。そして宇宙人であるところの宇宙と離れられない運命につながれて語られるのは──実篤を振った三島雪子との淡い淡い、恋愛に至らなかった初恋の物語……なんじゃそりゃ、って突っ込んだら、負け。

  雪子との淡い恋の終わりは、そうだろうなと思うがやはり切ない。お互いに素直になれず勇気も持てず、見送ってしまった恋だからこそ成就したらいいのになとは思ったが、まぁそうだよね。

 でも、読後感がいい。お互いがきちんとピリオドをおいた感じがする。恋の終わりは意外と静かにとケツメイシが歌ってたと思うけど、そうやって静かにオフにしたスイッチを入れることはもうなくても、思い出の箱の中にしまって時々眺めて欲しい恋であることは確か。

 雪子の望みが以外と少女チックで乙女妄想なのもいいな。ぽつん系女子ってのはひたすらクールかアホみたく妄想しているかどっちかだろうけど、雪子は後者なんだろう。自分自身との乖離もちゃんと理解していて、「夢で見るにしたってもう少しましな夢を見るべき」なんて思ってしまうこの不器用さ。静かで痛々しくてどこか甘い、青春の名残の恋。

 そしてここまできて、もう一度最初へもどる。つまり、極太のスケールと地元生活である。設定したことを使わなきゃいけないという固定観念から自由なんだろうな、羨ましい。

 SFの皮を被った青春恋愛小説、少しビター。そんなことを呟きながら、本を閉じた。


発行:ドイス・ボランチ
判型:A5版 52P 
頒布価格:500円
サイト:ドイス・ボランチ

レビュワー:小泉哉女