断片集ver.130317


 本の杜の非公式企画として、原稿用紙10枚縛りの文字数で行われた短編集。自己鍛錬、自文章の宣伝。作家同士の交流を目的として制作される。執筆者は総勢16人。参加者の寄稿作品は断片集の公式サイト(http://www49.atwiki.jp/danpen)に全文掲載。

※【サークル名】●作品名(サークルに二名以上いる場合は作者名)

・【アグロシ文庫】●お知らせなければ
 断片集のトップバッター。降車ボタンを押さなかったバスは、客を連れてどこへ行く? をテーマに描かれていたが、まさかホラーだとは思わなかった。文体としては、投稿された中で一番、必要最低限でまとまっていたと思っている。うっかりするとページが黒く埋まってしまう自分としては、見習いたい限りである。

・【ashtray in the dog_end.】●間を彷徨う、二つの扉の夢
 所謂携帯小説だった物に文章を加えて寄稿して貰った、夢での出来事を元にした物らしい。夢の中の視界は曖昧であるが、この作品は、夢の世界の視界をよく現していたと思う。物語では無く、話として作られたせいか、どこか他の作品と異質に感じる1作である。

・【 浮草堂 】 ● ヘヴンズ・ドアー~あなたの撃鉄は起こせますか?~
 不思議な店でのお話。死んだ人間が、その店で選ぶ物、という話は興味を引かれた。しかし中国人と思われるキャラのの語尾で笑ってしまったのが残念であった。作者のサイトの作品の一部であるので、この店の全貌を知りたい方は、どうか作者とコンタクトを取って頂きたい。

・【片道コンテグジット】●あの卵
 先生と教え子が会話しているだけなのだが、実は内容というよりも、少し古めかしい文体をいちいち楽しんだ1作だった。登場するキャラクタには名前は必要無く、完全に短い読み切りを意識した構成は見事と言える。落ちがもう少し解りやすければ、なお良かっただろう。

・【キミヨル。】 ● 星
 寄稿された中で唯一のBL作品。途中で砂糖を吐き出しそうになり、読むのが辛かったのが印象に残ってる。しかしBL作品だと気づかなければ、気づかないまま読めてしまう。果たしてそれはBL作品として成り立っているのだろうか、と思わないでも無い。つまり事前情報が無いと、内容が判断し辛いという点で、原稿用紙10枚縛りの主旨から外れるので、惜しまれる作品であった。

・【conversion】 ● 超未来殺人事件、超科学の謎(yao) ● 魔女が居る(yao)
 yao氏は唯一、断片集に二作品を寄稿した男である。だが前者と後者では、とても同じ人間が二作品会わせて二日で投稿した物とは思えない。一体、yao氏の頭の中はどうなっているのだろうか。魔女が居る、は単純に話の流れが上手かった。よくぞこの10枚で、ちゃんとオチまでつけてまとめた物だと思う。
●デュクシwwwwwwwwwww(こくう)
 コミケ会場で能力バトルもの。ありそうで今まで出会ったことが無かったジャンルに驚くばかりであった。オチも明日は我が身かと、納得してしまうのが恐ろしい。

・【城東ぱらどっくす】●カップの底
 どうやらホラー作品が流行っているらしい。そう言えば、自分も不透明の液体を見ると、その下に恐怖の想像をするものだ。結局あのカップの正体は。そして吸い込まれた男の行方は。ショートショートらしい作品だと感じた。

・【西瓜鯨油社】●割に合わない
 痴漢するために部屋へ押し入って、汚部屋具合に萎えて女を殴って逃げてきた。主人公は正真正銘の屑野郎であるが、特筆すべきはこの物語を考えた発想力だろう。作家目指す者として、ただただ敬意を抱くのみである。

・【たまごのしろみ】●件の事
 件という妖怪をご存じだろうか。民話調に描かれた作品で、氏の「民研部」という作品のスピンアウト物であり、件をテーマに、話として、うまくまとまっていると思う。氏の作品は、キャラクタが活き活きとしている点で一目を置いている。

・【二乗天使】 ● 春の風と君の声
 卒業直前の一時を、しっかりとした描写で描いている印象であった。しかし1場面を描いた物語としては起承転結の起承まで終わっている感が否めない。あと一息、何かが欲しい作品だった。

・【光の旅】●その日の夢
 今後に期待したい。恐らく、中盤から最後までの流れが急すぎて、よく解らないまま終わってしまったのが原因だと思われる。また文章が短すぎて、物語の流れも形成できていなかったのも、理由の1つだろう。化けるのを待ちたい。

・【ふりるふる】きみいろかけら
 単純に面白く、文章も物語の流れも安定していた作品だと感じた。

・【HONKY-TONK】●木枯らしの夜、泣き色の小娘
 殺伐とした世界観に引き込まれる魅力が、主人公DDには在った。

・【大和雪原】●さようなら
 心理描写という点で、断片集の中で最も評価したい作品だった。内容も面白かったし、何よりも主人公の思考を通して、フィクションの中の現実を感じ取れる力作であった。


発行:断片集実行委員会
判型:文庫 142P 
頒布価格:無料配布
サイト:断片集実行委員会(企画)

レビュワー:歩登