幻想銀座 vol.1


ファンタジー系ライトノベル合同誌。

『魔女のフヘン的純愛』(羽根川牧人&むらいち)
魔法学院の先生に恋をした私。
叶わぬ想いを揺り動かすのは、ある日見つけたフシギな石板。
ねえ石板? どうすれば先生のこころを手に入れられる?
答えてくれたなら、何だってやってみせます。
そう――愛のためなら、ありとあらゆる行為が許されるのですから。

『二人で空を飛ぶ方法』(吉田岡&露鴨)
大海に浮かぶ浮島都市に住む少年・ハクロウには、空と宙との境界【汽空域】開発のパイロットになるという夢があります。
しかし、夢には壁がつきもの。
前途洋洋なはずのこの少年の眼前に立ちふさがるのは、高所恐怖症という、馬鹿馬鹿しくも致命的な問題なのでした。

(サークルサイト様より転載)

 ああ、いいな、と思った。
 読み終えてすぐのことだ。
 なんて痛快で爽快な作品なんだろう。
 素直にそう思えた。

 読書家というのはこれが意外と業が深いもので(まあ何事も同じなのかもしれないが)、作品を読み続けないといられない癖に、読み漁れば読み漁る程好みにうるさくなってくる。ひねくれてくる、と言ってもいいかもしれない。とにかく、昔はこのぐらいでも心が揺り動かされたのに、今となっては同程度の作品では何とも思えない──なんてことになりがちだ。
 心が硬くなって、意固地になっていく。
 もしそんな感覚に覚えがあったら、是非本作『幻想銀座』を読んでほしい。『魔女のフヘン的純愛』と『二人で空を飛ぶ方法』の二作からなるこの作品は、きっとそんな硬く縮こまった心を解きほぐしてくれる。
 ──初心に帰る的な意味で。

 『魔女のフヘン的純愛』は、魔法を教える学園が舞台の痛快な作品だ。ハリー・ポッターですっかりお馴染みになった感のある設定だけど、本作の持つ味わいはあの作品とは全く異なる。何だか薄暗く靄がかかったような陰湿さはどこにもない、目標に向かって邁進(あるいは迷走)する魔法使いの少女の物語だ。
 天才的な魔法使いである先生に憧れた、《地味のジルマ》とあだ名される落ちこぼれの少女。ひょんな偶然から大昔の魔女の遺産を見つけてしまった彼女は、遺産の力を活用して先生の心をゲットできないものかと考える。最初は先生好みの女性になる──という目的が、少しずつ少しずつずれていき、それは憧れの『姉様』との関係すら変えていきながら、止まることなく暴走していく。
 暴走というか、爆走というか、とにかく遮二無二走っていくのだ。全力的な意味で。
 走り続けて駆け抜けて、少女が手に入れる結末。
 是非ともこれを味わって欲しい。
 決してただの善人じゃない、ただ目的に向かってあまりにも一途過ぎるジルマが手に入れたものは何なのか?
 頑張りに頑張ったのだ。
 生半可なハッピーエンドじゃあ終われない。

 もう一作、『二人で空を飛ぶ方法』は同じく異世界が舞台の爽快なファンタジー。海上銀座と呼ばれる複雑怪奇な迷路島が舞台だ。そこに暮らす少年、ハクロウは、幼馴染の少女セツレイと、ハクロウが所属する研究室の編入生エリスの三人が繰り広げる、とってもこじんまりとしていて、けれどどこまでもスケールの大きなドタバタ劇。
 個性的なキャラクター達の会話を楽しむも良し、散りばめられた語られざる物語を幻想するも良し。この作品の楽しみ方は幾らでもある。何よりこの物語はどこまでも「優しい」──悪人も登場するけれど、そんな問題ではなくて、とにかく物語全体の温度がひどく心地良く温かい。そして、爽やかだ──突き抜ける青空のように、ハクロウが目指す空の彼方のように晴れ渡っている。
 自分の心が凝り固まっているなと感じたとき、再読したい。
 きっと本作『二人で空を飛ぶ方法』は、冷たくなった心をゆっくりと温めてくれるだろう。作品のタイトル通りだ──ハクロウとセツレイのように。もしくは、この作品と読者の心が一緒に空を飛べるように。

 痛快で爽快な二作品が掲載された『幻想銀座』。
 読み終えて、ああ、いいなと安心できる優しい温度。
 この温度を是非、僕以外の沢山の人にも体験して欲しい。
 きっと病みつきになってしまうだろうから──勿論、文学的な意味で。


発行:幻想銀座
判型:A5 132P  
頒布価格:500円
サイト:幻想銀座

レビュワー:神楽坂司