センシティブ・ブルー


わかちゃんの背には、みどりの翅が生えている。
――大人たちの振りかざす青い硝子片、ひらりはらりと舞う
金色の鱗粉。わたしの肩のうえにいる、あおむし。
これは、わかちゃんとわたしの、ひとときのはなし。
(サークルサイトより転載)

表題作『センシティブ・ブルー』と、七つのちいさなお話が収録された一冊。
装丁の繊細な印象に違わず、うつくしい言葉で綴られた物語。
それは、硝子のように時に壊れやすく、時に冷たく、時に割れた破片の刺々しさも顕にしながら、それでも、透き通った光を孕んだ鮮やかな「色」を目の前に示してくれます。

表題作『センシティブ・ブルー』、そして『ブレイブ・ブルー』で語られるのは「あお」という色。
「あお」という言葉が持ついくつもの側面を、みどりの翅を持つ女性「わかちゃん」と、言の葉を食べるあおむしを連れた「子供」である「わたし」のやり取り、そして彼女等が生きている少し不思議な世界の中で描き出していきます。
描かれる風景は、我々の当たり前からは少しだけずれていて、けれど、彼女等が胸に抱えている思い、彼女等が見つめる「あお」は、誰もが必ず一度はぶつかって、胸の中にちくちくとした痛みを生むものでした。
そっと寄り添うひんやりとしたあおむしも。「大人」達が振りかざす欠片も。わかちゃんが、手放すに手放せなかった翅も。それらは、私たちの目には見えなくとも、本当は自分の手の中にある、もしくは「あった」ものなのかもしれません。
そんないくつもの「あお」を目の前に描き出した二作を読み終わったとき、「あお」という色がすうっと心の中に染み渡り、自分の内側にあるものと混ざり合う、そんな不思議な感覚に囚われました。そして、その微かな痛みを伴う不思議な感覚を、懐かしく大切なものであると感じるのでした。

その他の掌編も、ひんやりとした手触りで、どこか壊れやすいものに触れてしまったような気分になります。人の持つ感情を、一つ一つ丁寧に汲み上げて、細く透き通った糸として紡ぎあげた、そんな印象を受けました。
そうして紡がれた糸を手繰りながら、ゆっくりと、大切に、ひとつひとつの言葉と描かれた色を噛み締めていきたい、そんな一冊でした。


発行:花鳥
判型:文庫 36P
頒布価格:200円
サイト:花鳥

レビュワー:青波零也