カラカラと落雁の活字は鳴る
ある日、縁遠くなったと思っていた友人から手紙が届いた。
封筒の中には、カラカラとした、小さな活字金型のような落雁とカードが入っていただけ。
友人が魔法菓子職人になったと聞いたのは、何年前だろうか。
「君に食べてもらいたくなったので、贈ります」
落ちぶれた小説家に活字とは、嫌味なのか。しかし、友人の天然ボケした顔を思い出し、気が付くと口にしていた。
ほろりと溶ける落雁の味は優しく、清涼感があるのに、甘さがしみ込むようだ。
なぜこんな上品なものをと考えていると、
『君の中にある物語が大好きだよ』
と、活字が脳裏に浮かんだではないか。
――こぼれた涙が真白なノートに落ちる。握る気が起きなかった万年筆へ、手を伸ばした。
サークル情報
サークル名:またまたご冗談を!
執筆者名:服部匠
URL(Twitter):@tencus
一言アピール
不思議な魔法のお菓子がある現代の日常を、300字ssで描く「魔法菓子シリーズ」の一作。総集編が新刊予定です。作中の「活字の落雁」は以前ひざのうらはやおさんモチーフで書かせていただいたお話のものを使っています。