お手紙書いてね

「一生のお願い! 私の代わりに感想のお手紙を書いて欲しいの!」
 そう言って幼馴染に頭をさげると、
「一生のお願い、まだ残ってたんだな」
 冷ややかな声が返ってきた。う、いや、まあ、乱発してる自覚はあるけど。しょうがないじゃん、幼稚園のころからの付き合いなんだし。
「急に家にやってきてなにかと思えば」
「同じマンションだしさ!」
 小学生のころは、まあまあよく来ていた。高校になってからは初めてだけど。
 あのころと違って、シュースケは自分の部屋には通してくれない。まさかの玄関先での立ち話である。ひどい。
「なんだって? 代わりに感想書け?」
「そう。シュースケ、国語の成績良いじゃん!」
「因果関係が無さ過ぎてびっくりするな。自分で書けよ」
「自分で書けないから頼んでるんじゃん。代わりに書いて!」
「なんかこう、流行りのネタから思いついたみたいなのやめろよ。炎上したいの?」
 何言ってるか全然わかんない。けど、シュースケは一つため息をつくと、
「なんの感想?」
「小説! めっちゃハマった小説家がいて! 私ほら、国語の成績悪いから。この思いをシュースケにまとめて欲しくて」
「つまり俺に読んで代わりに感想書いて欲しいとかではなく、マイが読んだ感想を綺麗にまとめろってこと?」
「そうそう。あ、読んでくれるならそれでもいいけど!」
「……なるほど。感想屋というより代書屋ってとこか」
 シュースケはしばらく何かを考えるような顔をしてから、
「じゃあ、その感想を言って。録音するから」
 すっとポケットからスマフォを取り出してレコーダーを起動した。話が早いやつだ。
「えっと、何を言えば」
「とりあえず作者名と、タイトル」
「作者名は、おだか? こだか? まあなで」
「……曖昧なのかよ」
「漢字の読みわかんないんだもん。どの本も好きなんだけど……えっと、まずは、『その男、名探偵につき』かな」
 最初に読んだやつだ。
「どこが良かったのか、俺に説明して」
「メタネタパロの恋愛ものってどういうことかとの思ったんだけど。名探偵もののお約束を抑えたパロディで。最初めっちゃメタいし、あ、これギャグなんだって感じで笑ったんだけど。途中から、空気変わって恋愛ものになって。名探偵だから恋人と結婚できないとか、でもしたいとか、悲恋じゃないんだけどハッピーでもなくて、でもお互いめっちゃ好きあってていいな! って。私も好きな人と一緒にいられるなら、その人が名探偵で毎日死体とであっても別れようとは思わないから恋人にめっちゃ共感したの!」
「ふーん。他は?」
 え、次促すの? お前、好きなやついるの? とかないわけ?
「えっと、次は、あ、『そして木になる私たち』かな。死んだ後に木になるっていう変な世界の話なんだけど。でもなんか、馴染んじゃうといい感じで。私も死んだら好きな人が好きな林檎の木になって、食べてもらいたいなって思った」
 どうよ! 私の好きな人、林檎好きなのよ! わかる?
「二冊だけ?」
 嘘やん! スルーなの?  アンタと同じ林檎好きな人の話したのに?!
 くっそ、まだまだ!
「『四年に一度の隣人』は、異星人が地球に住む話なんだけど。時間の流れが違って、四年に一回しか目が覚めないの。だから、好きになっても自分の方が圧倒的に早く死んじゃったりして。一緒に生きられないとわかってて、それでも、好きになっちゃうものは仕方ないなっていうのはあるかな。私もなんでこんなやつをって思っても気持ちを止められないし」
 くそ鈍感男を好きになっちゃったりとかね!
「他は?」
「『調律師』はヒロインが記憶を失う運命にあって。主人公のことも忘れちゃうんだけど、それでも愛を貫くのがいいな、こういう恋がしたいなって。『ネナトウーラ』はめっちゃギャグって感じなんだけど、吸血鬼のドルオタっぷりがいいなって。好きなものに一直線なのいいよね。相手役のアイドルも吸血鬼ちゃんのことめっちゃ好きでそこもいいなって。この二つぐらいの感じで私も好きって伝えたら成功するのかなーとか思ってるんだよね。あ、あとは『ひとでなしの二人組』のマオも愛情表現が素直で羨ましいし。まあ恋じゃないけど、恋じゃないのにめっちゃ近い距離なの素敵だなって」
「他は?」
 恋って誰に? とか聞けよ!
「『ミスミミミと七不思議』は学園ラブコメで。やっぱり学校の恋愛っていいよね! 学校の七不思議調べるのとか私も小学生の時やったから懐かしいし。そういう不思議なことしてると好きになったりするよね!」
 どうよ? 学校の恋愛よ! 調べたでしょ、小学生の時に七不思議、一緒に!
「これで終わり?」
 な、ん、で! なんで何も響かないの!
「あー、『魔法のひまわりリーガルユカナ』! まだ最終巻読んでないんだけど。小学生の子が魔法の力で弁護士になるっていうのが子供の時に見たアニメみたいで好き。隣に住む検事のお兄さんと、幼馴染の男の子がいて、どっちもなんかこう微妙な恋愛の感じがあるんだよね。でも、私としてはやっぱり幼馴染の男の子と付き合って欲しいかな! 親近感わくっていうか」
 どうよ! 恥を忍んでもうほぼ言ったぞ! わかります? 幼馴染のシュースケさん!
「そんなとこ?」
 しかし、シュースケの反応は無であった。なぜ……。分かっててスルーしてんの? それにしては無過ぎるよな……。私なんて眼中にないってこと?
「そんなとこです……」
 匂わせる本がもう無いし、心も折れたので終わりにする。
「わかった。じゃあこれ、送るからさ」
 シュースケはレコーダーを止めると、
「このまま書き起こして、その作家に送りな」
「え? まとまってないのに?」
 ってか、ほぼあんたへの思いしか述べてないけど?
「まとまってなくても気持ちは伝わるだろ。俺が無難にまとめるよりも、読んだ後の面白かった! っていう生の気持ちの方が嬉しいって」
「そういうもん? 迷惑じゃない?」
「そりゃあストーカーとかは別だけどさ。普通の人が普通に気遣って発した好意が迷惑ってことはないよ」
 本当に? それは、恋愛感情でも? ねぇ、シュースケ。
「書かれた感想について作家がなんか文句言うっていうのSNSで見たりするけどさ。それって一部っていうか。普通はやっぱり感想嬉しいと思うよ。熱意が伝わってくるそれを嫌だと思う人がいたら、それはそっちの人間性が悪いだけだよ」
 はー。何言ってるか分からないけど。そういう頭良さげなとこ好き。
「うーん、分かった。書いてみる」
「ん、頑張れ。じゃあな」
 と、肩を押されて部屋の外に追い出される。ってか、普通に玄関の立ち話で終わったな。くっそ。
「あ、そうそう」
 ドアを閉める直前、
「おだかでも、こだかでもなくて、こたかまあな、な」
「知ってんじゃん!」
 シュースケは何故かそこで楽しそうに笑うと、ドアを閉めた。
 くっそ! しかし、ホントに鈍感なやつ! やっぱりマジ告白しかないのかなー。でもなー、上手くいかなかったら嫌だからその前に反応見たかったのになー。
 作戦練り直しだな。
 ファンレター? いいよ、その話はもう……。本題それじゃないし。
 ため息をつくと自分の家に戻った。

※※

 幼馴染を追い返すと、自室に戻る。
 いやー、ビビった。まさか、マイが小高まあなのファンだとは思わなかった。本棚に並んだ小高まあなの本を眺める。ビビりすぎて何言ってるか内容まで分からなかったから、あとで録音聞き直そう。
 手紙来たら、返事書かないとな。楽しみだな。とはいえ正体明かす気はないから、バレないようにしないと。
 そんなことを思いながら小説の続きを書くためにパソコンをたちあげた。

サークル情報

サークル名:人生は緑色
執筆者名:小高まあな
URL(Twitter):なし

一言アピール
本物の小高まあなは男子高校生ではなく、30代女性です!本文中で触れた作品についてはwebカタログを見てね!現在サンリオ沼にずぶずぶ。私のイチオシのメルちゃん(ウィッシュミーメル)は郵便配達の仕事をしながら、みんなに気持ちを伝えるお手伝いをしているのです!まさに今回のお題にぴったり!はー、可愛い……

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