手紙未満の

「落ちましたよ、」
 はらはらと音も立てずに枯葉か何かのように舞い落ちたメモ書きを前に、即座にその場にしゃがみこむようにして拾い上げられる。
「ああ、ありがとう。わざわざ」
 椅子に座ったままぎこちないお辞儀で答えれば、しなやかな指先にそうっとつままれた紙片の持ち主はくすりとかすかな笑い声とともにそれを差し出す。
「ごめんなさい、見るつもりなかったんですけど。かわいいなって」
 差し出されたクリーム色の紙切れを前に、思わず苦笑いが漏れる。

 DVD 枝豆 封筒

 いかにも、なボールペンの走り書きのおつかいメモ(筆跡が自身ものではないことは、たぶん周にしかわからない)の片隅には、得意げな顔をしたねこのらくがき。

「桐島さんが描いたんですか?」
「いや、」
 即座にぽつりと答えれば、言わずもがな、とばかりのまぶしげな笑顔が覆いかぶさる。
「じょうず」
 ひとりごとめいた響きで囁かれると、なぜだかかすかに耳が熱くなる。
 こちらのようすに気づいているのかいないのか――ふわり、とどこか得意げな笑みを浮かべながら、彼女は答える。
「私、前に妹と一緒に住んでたんですけど、いつもちょっとしたメモの隅っこにちっちゃい絵が描いてあるんですね。子どもの頃から電話してる間とかはいっつも、手持ち無沙汰だからって何かしららくがきしてる子で。その頃のまんまだなぁって思うんですけど」
 いつもなら見せないような『お姉さん』の顔をしたまま、やわらかな言葉は続く。
「ちょっとうれしいんですよね、そういうのって」
「……あぁ、」
どう答えればいいんだろう、こんな時は。どこかしら気まずい心地のまま、ひとまずは拾い上げられたメモ用紙をぎこちなく裏返しにすることでその場をやり過ごす。

「お疲れさまです」
 にこりと笑いかける仕草とともに、肩の上ではらりと赤茶色に染めた髪が揺れる。
 やわらかに光を跳ね返すそのさまに、よくよく見慣れた影が自然と覆いかぶさるのには我ながら参ったとしか言えないのだけれど。

 遠ざかる影を見送ったそののち、すこし折れ曲がったメモ用紙の隅をするする、と指先でなぞり、気づかれないようにかすかなため息をこぼす。

 もうとっくに済んだはずの数日前の用事で、後生大事にとっておいたつもりなんてさらさらなくて――なのに、なんで。
なんでこんなに、こんなことくらいで。ぎこちなく引きつった指を握り締めながら、デスクトップPCの時計の表示をじろりと睨みつける。
 
 ――ラブレターの主に会えるまでには、まだ途方もなく遠いのに。

 片隅に残された 君の足跡が 恋の形を淡く切り抜く

サークル情報

サークル名:午前三時の音楽
執筆者名:高梨來
URL(Twitter):@raixxx_3am

一言アピール
「ほどけない体温」の恋人たちふたりのお話。こちらは「指先に光の雨の降る朝に」からの再録です。
/様々な愛情と優しさの在り方についてのお話を書いています。新刊はお喋りをする黒い犬と悩める人々との告解室でのやり取りをつづるアンソロジーと、その「物語」が生まれるまでのお話です。

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