花と短歌の百合物語
【序幕】
恋文を文通と知りにじむ紙撫子の花押して返した
貴女へと伝えるためにローファーを履いて叫んだ「好きと言ってよ!」
コリウスを照らす炎を隠したの郵便受けに鍵を残して
***
幕間「校門に薫り漂う梅の花『届かないで』と願う空には」
「告白なんて」
高嶺の花と知っている。
同性の恋心など、あの人は知っていたとしても、家が赦すものではないだろうと。
だからこそ、この思いが伝わってはいけない。分かってはいても、負けず嫌いな性格から押し花を添えて手紙を返すなどして。
「……あと少しの我慢」
言い聞かせても、何度言い聞かせても、諦めきれない自分がいる。
腹の中がぐるぐると、不安や葛藤で混ざりあって、食事もろくに喉を通らない有様だ。
登下校時に校門に咲く梅の花の香りすら憎たらしい。今の私には、別れの季節が近いことを告げる花でしかない。
ああ、この恋心をなかったことに出来たら、どんなにいいか。
かなわない恋であると、諦めることができたら。
【二幕】
「知っている貴女の恋も諦めも」手紙に添えたナズナの花を
好きに生き貴女も皆も共に行くそれができればそれでいいじゃない
鍵を持ち出かけてくると一人旅向かう先なら鍵が知ってる
***
幕間『夢見てた鳥かごの鍵開ける人待っていたのよ私の主人』
「ねえ、貴女が示したこの鍵は、私が思うような『身分の差』に対する抵抗なんでしょう? ずるいわね。私もその話に乗らせてよ」
もし返事が無かったら。もし私が抜け出さなかったら。本当に諦めるつもりだった。そういう迷いが、プラスチック製のタグの折れた跡に表れている。
「大丈夫よ。 確かに、私の家のことを考えれば言いにくかっただけで、家を出てしまえば関係ないわ。 それに。――『駆け落ち』なんて素敵な経験、してみたかったもの」
不安もある。でも、だからこそこれは本気。
良いじゃない。スリルがあってこその恋だと私は思うし、もちろんそうじゃない人もいるでしょうね。私は前者で、両親が後者であっただけ。
人生は退屈なものより、楽しいものの方が素敵だもの!
【終幕】
合言葉の代わりと言っては何だけど この「合鍵」で通じるわよね
隠れ家を転々として旅支度「切符を2枚」「特急券で」
「少しならお金も持った。どこ行きたい?」「喫茶店なら一息つけるわ」
海沿いを走る電車の香りから故郷の色抜けて|漂う
最初から自由の身なら幸せだ 今ならもっと幸せだよね
この先も終点のない旅路だけど貴女とならばどこでも行ける
名乗るなら貴女の苗字
いいでしょう? ほら約束よ 指切りげんまん
完)
サークル情報
サークル名:えゑいめんどくさい
執筆者名:うらひと
URL:なし
一言アピール
花言葉×短歌×百合のショートストーリーで、歌と幕間の掌編による三幕構成です。他にも短歌を交えた作品がございます。