レターセット

 『手紙』って届くと嬉しいし、送るのも楽しいですよね。帰宅して郵便受けに封書や葉書が入っていると嬉しくなります。とは言っても、現実は税金や光熱費等の請求書や、一度利用しただけのお店からのダイレクトメールが主で、友人や知人からの『手紙』とはかけ離れた物ばかりで九割がっかりしています。その中、手書きで自分の住所と名前が書かれていて、差出人が友人や知人であることがわかる封書や葉書が紛れていると、九割のがっかりが一気に十二割の嬉しさに変わるので、『手紙』の威力は凄いものだと常々思っています。そんな『手紙』についてつらつらと。
 私が貰った『手紙』で一番古いものは、従姉から届いた『手紙』でした。当時の私は小学一年生で、とある理由により一階平屋建の風呂無し二軒長屋に住んでいました。我が家の家庭事情は少し複雑なので詳細は省きますが、なかなか不便な生活をしていまして、慣れない環境に不満はあっても子供なので親に従うことしかできず、そこでの暮らしは苦痛でしかありませんでした。
 そんなある日、我が家に知らない人が来て、親と笑いながら何か会話をして、すぐにいなくなりました。親が居間に戻ってくると「お前に手紙がきてたぞ」と渡されたのが、私の人生初の『手紙』でした。白地に封の部分が薄緑色の封筒で、表面には私の名前、裏面には従姉の名前が書かれていました。初めての手紙にテンション爆上がりの私は、何度も何度も読み返し、大切にしていた記憶があります。その手紙は現在、行方不明になってしまいましたが、あの時の嬉しい気持ちは三十ウン年経った今でも覚えています。
 余談ですが、この手紙、実は二軒長屋の隣人に届いていまして、なぜ誤送されていたかというと、隣人と我が家の苗字、漢字は違いますが読み方は一緒(例えば『橋本』さんと『橋下』さんは漢字は違いますが読み方は『はしもと』で同じ)というなかなかレアなケースで、しかも我が家は引越してきたばかりという偶然が重なった上での誤送だったようです。
 『手紙』を書くのも楽しいですよね。小学、中学、高校と、授業中に手紙を書いてクラスメイトだったら授業中に他のクラスメイトを介して回してもらい、別のクラスだと休憩時間に渡しに行く。内容は今思えば他愛もない、言ってしまえばくだらない、直接言えばものの数秒で済むものだった気がしますが、当時の私や友人達はそれが楽しくて、可愛いメモ帳や便箋を文房具屋さんや雑貨屋さんで見つけては、少ないお小遣いで購入して、学校に持って行くのも懐かしい思い出です。
 そしていつの間にか、ただのメモ書きのような手紙が独自の進化を始めるのですが、絵を描くのが得意な友人は絵を描いて漫画風に吹き出しを付けてその中に手紙の内容を書いたり、手紙の開き方がわからない折り方に工夫したり、ノートの切れ端を上手に正方形に切り取り手紙を書いてから折り紙のように鶴や奴さんにしたりと、手紙を書く紙のこだわりから派生した各々の個性が出る手紙のやり取りになっていきました。
 これまた余談ですが、絵の上手な友人は、当時放送されていた『ふしぎの海のナディア』というアニメにハマっていまして、頻繁にナディアを描いてくれました。別の高校に進学したので中学卒業以降の連絡先はわからず、今彼女は何をしているのかわかりませんが、今も楽しくオタ活してくれていたらいいな、と思っております。
 過去に可愛い便箋を収集していた影響でしょうか、我が家には沢山のレターセットがあります。大人になって『手紙』を書く機会は減り、さらに携帯電話やインターネットの普及により、手紙を書くことよりもメールで大抵のことは済ませられてしまうこのご時世。なのに何故かレターセットが沢山あります。勿論、葉書もあります。しかも、未だ増え続けているのです。
 元々収集癖はあるのですが、滅多に使わないレターセットや葉書を購入するのは無駄でしかないのでは? と思いつつも、自分好みのものを見つけるとついつい購入してしまう。まだ葉書の場合ですと、殆どがポストカードなので、部屋に飾るなりポストカードケースに収めて保管しても良いし、そもそも物理的容量はレターセットよりも遥かに小さいですから、まあ良しとします。一方、レターセットは便箋と封筒、封をするシールと、気軽に飾れるようなものではありませんし、保管にも物理的容量は大きく、収納箱が増えていくばかり。手紙を書いて使うしかないけれど殆ど書かないからほぼ使わない。使わないから溜まる。溜まるのに好みのレターセットを見つけると購入してしまう。入るばかりで滅多に出ていかないため溜まる一方です。
 そこで解決策として地道に実行しているのが「旅行に行く時、レターセットを持って行く」です。若い頃、よく一人旅をしていまして、行った先々で絵葉書を買っては友人や知人に旅先から送る、ということをしていました。私が思う旅の醍醐味の一つなんですが、それを今は夫相手に、絵葉書ではなくレターセットを使って手紙を書いて送っています。勿論、旅行には夫と一緒に行きますので、夫に内緒で手紙を書いて、バレないように手紙を出す。なかなかスリルがあって私自身楽しんでますし、夫も旅行から帰宅すると自分宛に手紙が届いていて嬉しい。ある意味一石二鳥だったりします。
 レターセットの山からいくつかピックアップして、便箋は数枚、シールは予め切り離して便箋と一緒に封筒へ入れたセットを、何種類か作り、封筒が入る小さなクリアファイルに入れて、旅行かばんに忍ばせる。旅行先の気分や雰囲気に合わせてレターセットを選び、夫が部屋に居ないタイミングや寝た後に、こっそりとクリアファイルを取り出し、こそこそと手紙を書く。切手は記念切手を予め用意しているので(記念切手大好きマン)、封筒に貼ってあとは郵便ポストを見つけたら、しれっと投函する。手紙は旅行の事を書いているので、何年経っても手紙を読めば、いつでも旅行のことを思い出せるのが、また良いのです。
 まだまだ沢山のレターセットがありますので、旅行に行くたび少しずつ持ち出し、旅の思い出を手紙に綴っていきたいと思います。
 私が初めて『手紙』を貰った三十数年前から、沢山の物事がアナログからデジタルへと変わり、『手紙』もその変化の波に漂っています。メールが普及していない頃は手紙でのやり取りが主でしたが、電子機器が普及されていくうちに手紙を書く機会が減り、逆にメールでのやり取りが主に変わってきております。一年に一度のご挨拶『年賀状』ですらメールで済ませられてしまいます。ネット環境さえあれば、誰とでもどこででも繋がれる。そんな簡単で便利な手段を利用する事は自然なことですが、手紙を出す、という習慣が減ってきている事は、少し寂しく思います。時代の波に流される事は決して悪くはありませんし、流されない事も勿論悪くありません。どちらが良い悪い、ではなく、どちらも良くもあり悪くもある、だと思います。
 今後、技術の進化は進んでいくでしょう。いつか、『手紙』という存在が無くなっても不便のない時代が来るかもしれません。そんな時代になっても、どちらかを無くす、という極論ではなく、どちらも共存する世界であり続けている事を心から願いながら、私はこれからも好みのレターセットを買い続けていきます。

サークル情報

サークル名:雑食喫茶
執筆者名:梅川もも
URL(Twitter):@usuasagimoe

一言アピール
久しぶりのWebアンソロ参加です。新刊が初のエッセイ本を予定しておりますので、アンソロもエッセイで参加しました。お気軽に読んで頂けましたら幸いです。

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