5歳長女と3歳次女、手紙を書く
ある日、幼稚園からの連絡帳に、小さな白い紙袋が挟まっていました。中にははがきが一枚。友情の絵はがき。裏を見れば、手紙を書く面の上半分にはカラフルな絵が描かれています。絵のタイトルは「みんなで夜のピクニック」。恩田陸の「夜のピクニック」を思い出しました。そういえばあれは富山での思い出だったようなそうでないような。あやふや。まぁいいや、せっかくだから使ってしまおうと、5歳長女と3歳次女に手紙を書こうと伝えました。経験上、取っておいていつかは使わないタイプなのです。
まず、長女が青いクレヨンを手に取って何やら書き始めました。我が家にはアンパンマンの五十音のパズルがあります。長女は最近それを見ながらひらがなを書くことが多いです。ただパズルには五十音までしか掲載されていないので、「が」とか「ぱ」とか「ちゃ」とかになると書けません。でも、ちゃんとそのパズルにはないと判断して「おかあさん、ちゃはどうかくの?」と訊いてくるのですごいしえらいしかわいいです。今回は質問がないまま書き終えました。
「誰に送るの?」
「ちばのおじいちゃんとおばあちゃん!」
「そっかー」
元々はがきにプリントされていた絵の下いっぱいにひらがなで文字が書かれています。が……きめつのやいばのおんがく……? いや、でも鬼滅が流行ってからは全然千葉とは連絡取ってないし……。子どもががんばって書いた文字、できれば読んであげたい、読んでみせたい、という思いだけではどうにもならないことが多い世の中ですね。
「長女、これなんて書いたの? きめつのやいばのおんがく?」
「うん、そう!」
「でもちばのおじいちゃんもおばあちゃんも鬼滅の刃は知らないんじゃないかな?」
「えー」
結局深く突っ込めずに長女の手紙を預かりました。長女はおじいちゃんとおばあちゃんにお手紙が書けて満足そうです。
ちなみに、このはがきはこの文章を書いている今現在も手元にあります。むしろ見ながら書きました。ネタにするために取っておいたのではなく、千葉のおじいちゃんとおばあちゃんへ贈るべきものがたくさんありすぎて、どこから手をつけたらいいのかわからなくなっているのです。気軽に富山と千葉を行き来できた頃が懐かしいです。
さて、お次は3歳次女です。おねえちゃんが書き終わった頃、ようやく書き始めました。
「これがおかあさんで、これがおとうさんで、これがおばあちゃんで、これがおじいちゃんで、これがせんせい!」
そう言って次女が見せてくれたのは茶色のクレヨンで書いたぐるぐるでした。5つのぐるぐる。絵なのか文字なのかわからないけれど、その茶色いぐるぐるの一つひとつが、次女にとっては一人ひとりを示すもののようです。
「でもこのはがき、お手紙は誰か一人にしか出せないよ? 誰へのお手紙にする?」
次女は自分の書いたぐるぐるを見ながら、
「んーー、せんせい!」
このはがき幼稚園からきたものなんだけどなーと思いながら、忘れないうちに幼稚園のかばんの中の連絡帳に挟んでおきました。
後日先生と話す機会があったので手紙のことを訊いたところ、「すっごい嬉しかったです」と言っていただけました。幼稚園の先生はお仕事ですが、そこに嘘はなかったと思います。手紙の内容ではなく(というか内容は読めなかったでしょう)、手紙を送るという気持ちそのものが嬉しかった、届いたのだと感じました。
長女も次女も、たまに幼稚園のおともだちから手紙をもらってくることがありました。中身の文字は親が代理で書いて、名前だけ本人が書いたのかな、というものや、ひとことふたことだけだったりの手紙もありました。あれは内容よりも、気持ちが重要だったんですね。
大人になってから、またこうやって文章を書くことを趣味と仕事にしてから、文章の重要性、そのメッセージ性ばかりに目が向いていた気がします。でも、手紙はきっと、文字がなくても、あるいは読めなくてもいいんだと気付きました。いや、思い出したのかな。私にもきっと文字が書けなかった時期があったはずだから。
あ、長女の手紙、出さないと。微妙に読める「きめつのやいばのおんがく」が謎だらけだけど。そもそもおじいちゃんとおばあちゃんがこの文字を解読できるかもわからない。でも喜びますね。そしてなんて書いてあるの?と訊いてくるでしょう……うーん、長女に電話に出て説明してもらうのが一番な気がします。
サークル情報
サークル名:7’s Library
執筆者名:なな
URL(Twitter):@Ikuji_anthology
一言アピール
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