恋文
お久しぶりです、元気ですか?
俺はなんとかやってます。
ベルリンは雨が続いています。今日で三日目です。
今、調べたら、横浜は晴れていますね。
春らしく、寒くもなく暑くもなさそうで、うらやましいです。
こっちは春とは思えない寒さで、部屋の中でもガウンを着ています。
今、ベルリンは夕方の五時です。そっちは夜の一時か。寝ているか、夜更かししているか、微妙なところですね。君はよく寝る人だったから、多分、寝ているんじゃないかと予想します。
そういうところも少し羨ましいです。
俺は最近、夢見が悪いから。
だからこうしてまた性懲りもなく筆を執っています。
長雨が悪いのか、君の夢ばかり見ます。
一緒にいた頃の夢。まだ単なるクラスメートだった時のこと。
屋上の夢もよく見ます。寒い日も暑い日も一緒に昼飯を食って。今思うと、他に場所があったんじゃないかという気がしますが、あそこは俺たちにとって特別なところだったとも思います。
一番辛いのが、今でも君が俺の傍にいてくれる夢です。
昨日見た夢は最悪でした。
もう少し広い部屋を借りて、ベルリンに二人で住んでいる夢でした。外は綺麗に晴れ渡っていて、朝日が窓から差し込んでいました。その光を浴びながら、もうすぐ目覚めようかという君を、俺は先に起きて眺めていました。眩しかったのでしょう。じきに瞼が開いて、俺と目が合って、君は嬉しそうに笑いました。たまらなくなって、俺が「好きだ」と言うと、君も「好きだ」と言い返してくれました。
よく大学に行く途中で君のことを思い出します。カント通りは君と歩いた日本大通りに似てる気がしますし、晴れた日のサヴィニープラッツを君と見られたらどんなにいいことだろうと思います。
あれから二年経ちますが、君のことを思わない日は一日もありません。
なのに、どうして俺はいまだに泣けないんだろう。
会えなくなってからも、高校の卒業式の日だって、君と別れた時ですら、俺は泣けなかった。君になにもしてやれなくて、あんなにもどかしくて、悔しくて、自分が情けなかったのに。
君と、どうしても一緒にいたかったのに。
寂しいです。俺にこんなこと言う資格はないのかもしれない。それでも君に会いたい。会って、話がしたいです。なんでもいい、つまらないことで構わない。まだ君のことが好きだなんて言わないから。君の声が聞きたい。君に会いたい。会いたい。
絶対にしてはいけないことだと分かっています。
君のためを思うから。
俺も自分に許しはしないでしょう。
でも、それだけがたった一つの望みなのです。
人は、時間が解決してくれると言いますが、俺にはそうは思えません。
きっと俺はこれからもずっと君を思うでしょう。
死ぬ間際に、君の名前を呼ぶでしょう。
愛しています。
遠くから、何よりも君の幸せを祈ります。
*
あたしはいけないことと知りながら、びりびりに破かれ、ごみ箱に捨てられていた紙片の一枚一枚をつなぎ合わせていた。念入りに砕かれたそれはまるで出来の悪いジグソーパズルのようだった。
ようやく完成したが、お世辞にも手紙には見えなかった。ノートの一ページを破って書かれた、酷い独白だ。文字だけがいつものように几帳面な筆致なのが、逆に痛々しかった。あの子の澄ました表情の奥にあるひび割れた心を、あたしは今、暴いてしまったのだ。
罪悪感を胸に、窓の外を見上げる。ベルリンの空はどんよりと重く、垂れ込める黒い雲からは雨が降り続いている。
「……ラブレターならもっと上手く書きなさいよ」
独りごちて、あたしは紙片をかき集めてごみ箱に戻した。勘の良いあの子にどうか気づかれませんようにと、ろくでもないことを願いながら。
サークル情報
サークル名:ラズリラズリ
執筆者名:住本優
URL(Twitter):@yusumimoto
一言アピール
お久しぶりです、元気ですか?
俺はなんとかやってます。
——雨のベルリンから送る、とある人への恋文。