夢守人黒姫 Love in a mist(5)

arasuji
「あなたの夢に、お邪魔させてもらう」
 かつて人気子役として一世風靡した過去を持つ少女・藤崎綾乃。舞台への憧れを秘め、退屈で平凡な日々を送る彼女の前に、青い髪の少女・青子が現れた。綾乃はその日から、華々しい舞台の夢を見るようになるが、それは同時に、彼女の心と身体を蝕んでゆく悪夢でもあった。親友が教えてくれたおまじないに縋った綾乃の前に、桜の花吹雪と共に巫女服の少女・黒姫が現れる──。
 夢の秩序を守る夢守人・黒姫と、悪夢を植え付ける夢魔・青子との戦いと執着を描いた夢幻想現代ファンタジー(カバー見返しより)

※この作品の過去の投稿
 夢守人黒姫 Love in a mist
 夢守人黒姫 Love in a mist(2)
 夢守人黒姫 Love in a mist(3)
 夢守人黒姫 Love in a mist(4)


kansou

P9~15の「桜色」と「青い花」の存在する光景に、優雅ながらどこか妖しさも漂う、幻想的な美しさを感じました。
文章が、日本の古い和歌や歌のようだと感じました。自然に近い場所に建設された神社などそういう日本古来を連想するような場所で、風に揺られて言葉が流れてくるような、そんな感覚がしながら読みました。
改めて表紙を眺めると、ああ読んでいる時の特に夢の中のシーンの雰囲気や映像のイメージは、この表紙イラストイメージそのままだ! と思いました。(いえ順番的には、表紙イラストが物語の内容や雰囲気ぴったりに描かれているのだと思いますが……!)

P10で夢主の少女が病苦で苦しんでいる、というのが、読んでいて私も胸が苦しくなりました。14~15行を読んで、病苦に耐えるのは大人だって辛い事が多い。この子は小さい身体でどれだけ耐えてきたんだろう。耐えざるを得なかったんだろう。お洒落や化粧にだって興味が出てくる歳頃だろう、鏡を見る事が増える年ごろだろうに。点滴だって、身体に針を刺すのだから痛かっただろう。何度も何度も刺して、検査して治療して、どれだけ苦しかっただろう、健康を望んだだろう、鏡を見ては現実に返らされ苦しんだだろう。

「病苦の夢に付け入るとは……」
本当にそう。そこに付け入るなんて、陰獣は嫌な性格をしている! と思いました。そして陰獣は、そういう気質の存在であるのだと知りました。黒姫はそういう存在と、戦っているのだと知りました。黒夢は夢を守ってくれているのだと。

P13「オモイバナ!」から、P14「私に応えろ」「昇華・桜花繚乱!」のシーンはとても美しくて、勢いがあって、格好良いなぁと思いました!

夢主の少女が陰獣から開放され、「穏やかな表情」で「満面の笑みで花畑を駆け抜ける」事ができて。私もとてもホッとして、少女に良かったね! と思いました。その後、少女の病気が現実世界でも快方に向かったのかは分かりませんが、現実世界で病気がもたらす痛みや苦しみの中、夢見た事が夢見る夢が、眠っているあいだ夢の中では叶えられる。黒姫はそんな夢を守ったのだと。黒姫ありがとう!

冒頭P9~15からすっかり「夢守人黒姫」の世界に浸りました。

P28~31、青子は人間にこうやって悪夢を植え付けるのか、と思いました。
悪夢の中にいる綾乃ちゃんが「悪夢」を見ている、感じている気持ちが伝わってきました。
自分への自信が崩れてしまうというしんどい経験を、悪夢の中で繰り返されるなんて。悲しくて辛くて混乱しただろうなぁと、私も胸が痛くなりました。もう2度ど味わいたくない、出来るなら考えたくもない思い出したくもないような苦しさを、それを象徴するようなイメージの世界で何度も何度も繰り返し見せつけられるなんて、もう悪夢以外の何物でもないな、と。

そしてP31の12行目からは、綾乃が切望していた、でも現実では叶わなかった、叶わないでいる事が、起こっている光景。綾乃が青子が植え付けた夢に取り込まれていく感じが、リアルでした。P33の1~6行目は、読んでいて自分が綾乃になったかのように、その描写を身体で感じているような感覚がしました。きっと綾乃は目を見開いて、光景を凝視して、身体が震えだして、飢えて飢えて飢えていたものが目の前に出現して、手を伸ばせる。きっともう、なにかおかしいとか、変だとかそういう違和感にも気付けないくらいに、見せられた夢に魅せられたんだろうと。
青子の言葉が、甘く甘く妖しく、甘く、どんどん夢の悪夢の世界に、催眠術みたいに甘く甘く、綾乃の背中をそっと押していると思いました。

そして青子。私は、青子に標的にされたくないし、現実で関わりたくはないけど、「夢守人黒姫」を読んでいて、青子を好きというか、好きというより魅せられるというか、怪しいし危険だし決して信用しちゃいけないはずの存在だと思いながらも、この子は、妖しくて危険だけど、可愛いし、好きだって思いました。声は、少し舌足らずで可愛らしい甘い声を想像しました。

話が前後しますが、P10で「植物が人間に生えている」描写を、その前後の文章を幻想的で流れるような美しい文章だと感じながら読んでいたけれど、その描写部分だけ不気味さを感じていました。幻想的な美しい文章の中、妙に不気味だと。でも気のせいかな? と思い、気になりつつもそのまま続きを読んでいました。

でも、綾乃が自身に植え付けられた夢花を見て、P52の17行目で「気持ち悪さに」と感じているのを読んで、やっぱりこの夢花の描写は、気持ち悪くて怖い光景なんだ……! と思ってハッとしました。

そして、夢がいくら夢を見させてくれるからといっても、「痛み」は現実だから。
P35で「最初こそ悪夢~助けてくれる。」「嫌なのは~悪いことだ。」、P52「良い夢と悪夢のバランスが大事なの。」を読み返して、現実の痛みがないと夢もないんだな、としみじみ感じました。

P51~52の「夢花の間引き」と、P10で病気で苦しむ少女に付け込んだ夢魔。
対象の人間の痛みに付け込んで、夢見た夢を夢で見せ、悪夢を見せて、肥料とし、エネルギーを吸い取って養分として、人を食い尽くし、開花に至る夢花。

夢も、夢の描写の光景も美しいけれど、青子は妖しくも可愛いけれど。P49の綾乃自身の声のように、等身大の自分を、苦しくても痛くてもみっともなくてもそんな自分も自分で見て、次に前に行動できるように、私も頑張ろうと思いました。P53の「開花だわ~素敵だね」という可愛くも恐ろしい青子の彼女が近づいてくる時の甘い囁きに負けないように、そして自分の弱い目を背けたい心に負けないように。

P57、青い花が支配する世界に舞う桜吹雪。美しいな、と思いました。表紙の黒姫と青子の視線が交錯しているイラストを思い出し、改めて表紙を眺めています。

P61の「しかし、この夢の世界では、そう思ってしまったほうが、負けだ。」を読んで、私も自分の意志を強く持とう! と思いました!

P68~75はどきどきしました!(萌) P71のイラストの青子が大好きです!!(萌) ありがとうございます!!(萌)

ラスト、綾乃は昌子と仲直りできて本当良かった! と思いました。昌子は素敵な親友ですね!

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発行:またまたご冗談を!
判型:文庫(A6) 96P
頒布価格:300円
サイト:またまたご冗談を!
レビュワー:納豆

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