元気だよ

 父と母が仲良く入院した。
 最初は母で、次に父だ。
 同じ病院だったが、いろいろあって、二人は別々の病室にいる。
「ねえ、お父さんは元気?」
 ふと、横になってる母が尋ねた。
 見舞いに来た人が持ってきた花を活けながら、私は答える。
「うん、元気だよ。だって、あのお父さんだよ? 今の入院だって、検査するだけの入院なんだから。それが終わったら、すぐに退院できるって」
「そう……よかった」
 母は嬉しそうな笑顔でそう答えた。
「だから、お母さんも早く良くならないと、お父さんが寂しがるよ?」
 ふふっと笑いながらそういうと。
「そうね、お母さんも早く元気にならなきゃね……せっちゃんには、世話ばかりかけちゃうわね」
「いいって、あっくんもりっちゃんも良い子にしてるから」
 そういう私に母は、優しく瞳を細めて、笑みを浮かべた。
「そう、それなら安心ね」
 ふと、母が窓の外を眺める。
 外は紅葉。はらはらと色づいた木の葉が舞い落ちていく。
「もうすぐ冬ね」
「冬が終わったら、春が来て、夏が来るよ。そうだ! また家族で温泉行こうよ。きっと楽しいだろうし、皆も待ってるよ」
 そんな私に母はくすくすと笑いだした。
「せっちゃん、そんなに温泉好きだったかしら? でもいいわ。退院したら、温泉行きましょ」
「うん、行こう行こう!!」

 この数日後、母は病気でこの世を去った。

 病院から送られてきた荷物を、私は一つ一つ確認しながら、取り出していく。
 いらないものは捨てて、残すものは残して。
「え? これって……」
 手紙があった。一枚は病院の看護婦さんからのメモ書き。
『枕の下にありました。大事なものだと思いますので、お送りします』
 もう一つは……母の手紙だった。私宛の、手紙。

『せっちゃんへ
 お元気ですか? きっとこれを見ているということは、私はもう、ここにはいないのでしょうね。
 あなたには、いろいろ甘えちゃって、本当にごめんなさい。
 まさか私が末期の病気で入院することになるとは思っても見ませんでした。
 そう、私は私の病気のこと、知っていました。
 ここの看護婦さん、ちょっと口が軽いみたい。私がトイレに立った時に、廊下で話してるの聞いちゃった。
 だから、手紙を書くことにしました。
 それと……もう一つ、お父さんのこと。
 前にせっちゃん、入院しているお父さんの写真、みせてくれたでしょ?
 せっちゃんは、寝ていたから、起こすのも忍びないから寝姿だけ撮ったって言ってたけど。
 本当は、既にあの時、お父さんは先に旅立っていたのね。
 でも、死ぬ前にお父さんの姿が見れて、本当に良かった。
 せっちゃん。行広さんと仲よくね。ちょっとだらしない人だけど、でもせっちゃんや、あっくん、りっちゃんのことを、ずっとずっと考えてる人よ。それにせっちゃんを幸せにするために、いろいろと頑張ってくれる人。だから、大事にしなきゃだめよ。喧嘩しても、ちゃんと仲直りしてね。あっちゃんとりっちゃんが悲しむわよ。
 せっちゃん、私の可愛いせっちゃん。
 いままで、本当にありがとう。
 私は一足先にいくけれど、あなたがこちらに来るときは、お父さんと一緒に迎えに来てあげるわ。
 だから、おばあちゃんになるまで来ちゃだめよ。わかった?
 それじゃあ、いってきます。またね、せっちゃん。
                     せっちゃんのお母さんより』

 涙が止まらなかった。ぽたりと滴が手紙に落ちて、滲んでも、止まらなかった。
 知ってたんだ。もう、あのとき、お父さんが倒れて、数日後に亡くなったことを知ってたんだ。
 それに、お母さんの病気のことも。
 それなのに……言ってくれれば、よかったのに。
「……あ、私も嘘ついてたから、かな……」
 はははと笑ってたら。
「お母さん、終わったー?」
「あれ、お母さん、また泣いてるの? じゃあ、ぎゅーっとしてなでなでしてあげる」
「お母さん、泣き虫だからねー」
 双子の私の子供達が、二人で私をぎゅっとしてくれる。
 それが暖かくて、嬉しくて、また涙が零れてしまう。
「ありがとう……」

 これから寒い冬になるけれど。
 でも、その後は春になり、夏になる。
 私は大丈夫。二人の子供と、大好きな旦那様がいるから。

 だから、安心してね。

 ――お母さん。


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サークル名:K.R.P(URL
執筆者名:秋原かざや

一言アピール
北国から参戦! 秋原かざやです。こちらのイベントには初参加! アンソロジーも初参加です。既にHPで公開した作品ですが、少しでも楽しんでいただけると幸いです。本を3冊委託していますので、ぜひご覧ください。

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