花幻之記~累ガ淵異聞

崩れ堕つ天地のまなか
一輪の花の幻

―あなたは尊い王と偽っておられるが、私には偽王にしか思えない。あなたの血筋、断絶してしまえと私はこの部屋で待っているのです…
「それがあなたの御望みか」
―いかにも。卑しいあなた、私を辱め、殺した罪を忘れるものですか、私のものだった王冠、誉れもその手によって幻となって消えてしまった。その悪行、善行と偽り変えたがために私は、悪逆非道の王となってしまった。其の身に尊き血筋などないというのに、よくぞ偽りを言うものだ。怨めしい所業。世も神も許せるものとは思えない…
「私のこの卑しき顔に比べてあなたの麗しさこの上なく…」
―何を言うつもりなのです…
「捕まえてその肌、その髪、例えようもなかった…、あなたのお声、心地よく聞こえたものです」
―よくも、あのような真似…
「私はあなたが欲しかった」
―私の悲鳴さえあなたは快楽とした、忘れることができない、けれども…
「何故、あのようなことおっしゃったのですか…」
―私を殺せ、と言うことですか。
「あなたのあしたのない哀しみ、私は知ってしまった…あなたが女性ならば、私は我が妃にと望みましたのに」
―男でも、構わずモノにして、挙句に殺した、その手で。私が持っていた戦斧で。そして天幕から引きずり出して泥にまみれてから…
「馬にくくりつけて、あの町で晒し者にした、あなたが何に汚れていたか、誰も気づいてはいまい」
―何をしたか隠したいとでも…
「家臣たちは知ってますよ、私の嗜好など。あなたは最高の獲物だった…」
―こんな穢れた男に何の用がある
「穢れているのは私の方。あなたは何もしていない。あなたの甥二人は私の手のものが殺した、それが事実」
―嘘つきだな、あなたという男は
「私は偽王、偽りの中で生きてきた。あなたは真実この国の王者の血筋。私の嘘をあなたは知っていた、それだけですよ…」
―だから私を
「ええ、私だけのモノにしたのですよ、それだけです」
―ひどい、とは言うまい…
「それは、何なのですか」
―望んでいたのかもしれない、と思っただけですよ
「私の手の中にいてくださるはずもない」
―あなたの孤独、あなたの虚しさ、私は知っていた、それで納得できますか
「まさか」
―そういうものですよ、玉座に座る寂しさを虚しさをあなたは知ってしまった、そうでしょう、冬の王よ
「冬の王、か。いかにも私らしい呼び名だな」
―そして、あなたは誰にも愛されない
「母にも、愛されたことはない」
―母になるにはあのレディは稚すぎた…あなたの父はまだ幼い少女を無理やり女にした、彼女は男を恨んで生きてきた…知らなかったとでも…
「まさか」
―あの方はあなたの父に犯された後は他の男に肌を許したことはない
「何故、知っている、私も知らなかったのに」
―本人から直接聞きましたよ
「母上が」
―復讐するために玉座を望ませた、と聞いてます
「私の身の破滅を願ったのか」
―ある意味そうでしょうね…あなたはあまりにも、父親に似すぎている
「母上が、そんな」
―女は誰もが魔女を内包しているようなものですよ、いえ、女ではなく…人間というものは、と言うべきでしょうけれど
「あなたにも魔性があるというのか」
―もちろん…
「そして、私に復讐する」
―自殺道具にしては、あなたは利口過ぎますよね、ねえ…
「名を呼ばないでください…」
―そう…名前、嫌いですか
「あなたと対立する名前のような気がしてならない」
―事実、敵対していたではありませんか
「それでも呼ばないで欲しい」
―わかりました、呼びません…この部屋はなんですか
「国王の寝室です」
―あの子がいませんね
「必要ない」
―必要ない…
「身ごもると別の部屋に行ってしまうのですよ、彼女は。形だけの王妃ですから」
―あの娘も望んでいる…あなたの家が絶えるのを
「母なのに」
―魔女ですもの、あの子は
「魔女を私に遣わすのですか、あなたという御方は」
―承知で娶ったものと思っておりました
「そう、承知していた…知っていたつもりだった…所詮はつもりに過ぎないが」
―いい子でしょう
「どこが、です、魔女ですよ、あの女は」
―嫌悪感…
「嫌悪感を抱いても仕方のない女ですよ、アレは」
―私にはそうは見えませんが
「あなたは同族だから、我が子同然の姫だから…そう思えるのでしょうね」
―違いますよ、魔女だからこそ、いいと言っているのです
「なんて一族だ、あなた方は」
―私は…あの子に告げました、種馬としては上等の男だと、ね
「そう来ましたか」
―王家の血筋を残すためには、必要です
「でも私の家名の断絶をあなたは願っている」
―ええ、女は許して差し上げましょう、でも男系の血は断絶を願っています
「そんな願いなど…叶うものか」
―いえ、傲慢さがきっと、天には気づかれることでしょう
「傲慢…私が、か」
―あなたのご子息が、ですよ。素敵なほど兄上に似ていて傲慢さ、それまでそっくりだ…
「あいつは…」
―いくらでもそっくりかえればよろしかろう、玉座の虚しさも知らずに、ね…
「そして、そっくりかえりすぎてひっくりかえって落ちて壊れる…それはあなたではなく、私の息子だったのか」
―ええ、だから、嬉しく思いますよ
「あなたの願いが叶うときが来たようだが」
―ええ、あなたのご子息は兄上によく似ていて女でつまづいて下さった、嬉しく思いますよ、しかも女の首、自分が抱いた女の首を二つも切り落とすなんて、素敵過ぎますね
「そして、あの馬鹿は…」
―性病で子供たちを不幸にした。気付きもせずに
「忌まわしい…」
―私は嬉しい
「いったい、あなたは」
―姪の血は残ってくれたと思うことにいたします
「何故だ…」
―あなたが敵だからですよ、呪って、祟って当然でしょう…素敵なあなた
「嘘を言わないで欲しい」
―嘘、ですか。そう見えますかね
「王家の血筋を残したいとは思わないのか」
―思いますよ、だから…男系はいくらでも途絶えるがよい。女なら見逃して差し上げましょう…
「女系とは」
―私がきちんと国王としての埋葬を受けるまで、祟り続けましょうぞ
「そんな…あなたの墓は…」
―あなたのご子息が壊してくださいましたのでね…
「あいつは…ろくなことせんな」
―もうすぐ私の墓が出来ます…御覧なさい
「埋葬式か…」
―さよなら、麗しい、残酷な冬の王よ、ごきげんよう
「嘘をついたのはどなたか、陛下っ、私か、あなたか、お答えくだされっっっ」
―嘘はつき続けましょうよ、ヘンリー。これで私の役目は終わりました…

豪華な装束をまとった物静かな人が質素な執務室で微笑んだ。冬の王はそれを見ていた。


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サークル名:みずひきはえいとのっと(URL
執筆者名:つんた

一言アピール
歴史人物を使ったファンタジーなどを執筆し発表しています。本がメインでの活動です。

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花幻之記~累ガ淵異聞” に対して1件のコメントがあります。

  1. つんた より:

    ツィッターでいただいた感想に一言と思ったけど、何も浮かばない。しかたありませんので、ここでまとめて・・・読んでくださつてありがとおおおおお。意図していたことも伝わってた。ほんにありがとおおお。古文に挑戦してみよっかなーと思ったりも・・・←やめろ。

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