嘘から始まる

嘘から始まる

 僕のことを好き、ときみが嘘をつくから。
 僕もきみのことが好き、と嘘を返す。
 きみの目が、きみの声が、きみの指が本当に焦がれているのは僕じゃない。本当は僕のことなんてどうでもいいのに、同じ顔をした双子の片割れで簡単に手に入りそうだからと、きみは僕を欲する。
 僕はそんなに甘くない。
 きみが僕を見ていないことなんてひと目でわかった。
 それなのにきみは繰り返す。
 あなたのことが好き、と。
 だから僕は、なけなしの自尊心をはたいてきみを好きになることにした。きみを好き、と嘘をつき続ければいつか本物になるような気がした。少なくとも、僕の感情は本物にできると思う。
 きみはいつまで夢見心地に嘘をつき続けるだろう。
 きみはいつ夢から覚めるだろう。
 その時隣にいるのは僕で、がっかりするだろうか。
 それとも、僕でもいいと開き直るだろうか。
 きみは酷い。
 僕らは確かに双子だけど、別々の人格を持った別人なのに。嘘をつかずに向こうを好きだと言ってしまえば、断られるのが目に見えているから、僕を取り込もうだなんて。
 きみは酷い。
 だから僕は、きみを好きになろうと思う。
 きみが僕の変化に気づいた時には、もう手遅れなんだ。絶対に逃がしてなんかあげない。それが、僕の些細な仕返し。
 きみを幸せにしてあげる。
 ねえ、どこまでが嘘でどこまでが本気だと思う?
 答え合わせなんかしてあげないよ。この嘘は、どこまで僕が本気になれるかにかかっているから、僕も答えなんか知らないし。
 きみのことが大好き。
 同じくらい、大嫌い。
 ねえ、どっちが嘘だと思う?


Webanthcircle
サークル名:黒川庵(URL
執筆者名:黒川うみ

一言アピール
基本的にバッドエンド直行のファンタジーや和風の小説を書いています。WEBで無料公開もしていますので、まずはそちらからお試し読みください。
http://kurokawaan.com/

Webanthimp

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください