太白寮小景 エイプリルフールの新入生

「宏大、これ新入生ね」
 新寮長の康ちゃんにぺらりと紙を渡された。書かれていたのは二人分の名前と出身小学校名。
「三島……よう……何て読むんだ?」
 名前に振り仮名がないので読み方がわからない。
「最近の子は読み方が難しい名前が多いよなあ」
「宏大、じじくさい」
「ならちゃん、うっさい」
 もう一人は……、なんか、『四月一日翔馬』って書いてあるんだけど……?
「四月一日? 翔馬が名前だよな? ってことはこの『しがつついたち』ってのが名字……?」
「変わってるよねえ」
 康ちゃんは若干わざとらしく言うとさらに
「あ、今日の歓迎会は闇鍋だから」
 と言って俺たちが何か言う間もなく行ってしまった。
「今、闇鍋って言った?」
「言ってた」
 どこからどこまでが本気なんだ……?
 談話室に残されたならちゃんと俺は思わず顔を見合わせて、お互い何も言わずにまた顔を戻した。

 星月学園。大正時代にどこぞの侯爵が某王国の某伝統校に憧れて作ったという、中高一貫、元全寮制の私立男子校である。通学生が増えた今でも七つの寮は健在だ。
 その一つ、太白寮も新学期目前、今日は四月一日である。春休みの終わり、今年度から六年生――世間で言うところの高校三年生だ――の乾宏大は同級生で同室生の楢沢浩二(通称ならちゃん)と談話室にいた。

 談話室にはテレビやソファやボードゲームなんかがあって、寮生たちの溜まり場だ。俺とならちゃんが同室なのにわざわざ談話室でだべっているのはまぁ、ここにいるといろんなやつが来るしいろんなことが起こるから。だべりに来る奴、テレビを見る奴、ゲームしたい奴も来るし、玄関に近いので帰ってきたらとりあえずここに来る奴もいる。俺たちも勉強するときは部屋だけど、それ以外は二人とも談話室や食堂にいることが多い。
 と、談話室のドアが勢いよく開いた。
「新入生連れてきました!」
 入ってきたのは二年生の山縣琉斗。琉斗はいつでもはきはきと礼儀正しい。
 同じく二年生の町山良平が新入生を連れて入ってくる。新入生は緊張気味に俺たちの前に並んだ。
 そりゃ緊張するよな。
 新入生は琉斗に促されて自己紹介を始めた。
「えっと、三島はるきっていいます! 一年生です! よろしくお願いします」
「あ、はるきって言うの!」
「はい! 太陽の陽に己? ではるきです!」
 今自分の字迷ってなかったか……?
「わたぬき翔馬です。よろしくお願いします!」
「……え?」
「わたぬき」
「あれ『わたぬき』って読むの!?」
「はい。よく読めないって言われます」
 だろうね……。
「暖かくなってきて着物の綿を抜くから四月一日をわたぬきって言うんだそうです」
 へええ!
「ってなんで琉斗がそんなこと知ってるの」
「気になってさっき調べちゃいました!」
 真面目だねえ。
 って、いうか。
「お、新入生、いらっしゃい」
 賑やかなのを聞きつけたのか再びやってきた康ちゃんがいつものように軽い調子で言いながら新入生に向かい片手を上げた。
「寮長の檜山康太です。よろしくー」
「三島陽己です、よろしくお願いします」
「四月一日翔馬です」
「おお、君が。四月一日に来た四月一日くん」
「康ちゃん、さっき俺たちのこと騙したでしょ!?」
「えー?」
「読み方、知ってたんじゃん! あれじゃまるで、」
「俺は『変わってる』って言っただけだよー。嘘は言ってないって」
 康ちゃんはこういうところ、本当に読めない。害のあることはしないんだけどさあ。いやだからこそ? 日々こんな感じのことがあるわけで。
「新入生の名前だよ!? さすがにさあ」
「まぁまぁいいじゃん。本人からちゃんと聞けたんでしょ」
「そうだけど」
「ってことで、これからよろしく。この二人は俺と同じ六年生だから。何かあったら頼っていいよ」
「それは康ちゃんでしょ!?」
「俺はいいんだってー」
 康ちゃんはひらひらと手を振りながら「じゃ、歓迎会で」と、また談話室を出て行った。あの人自分で歓迎会の準備してるのかな……?
 新入生二人は戸惑ってるし二年生は苦笑している。そりゃそーだ。
「あー、えっと、俺は乾宏大。六年生で、一応監督生。よろしく」
「一応ってことはないだろ。俺は楢沢浩二。六年生で、こいつと同じ三〇二号室。監督生じゃないから安心して」
「ならちゃんそれ誤解生むでしょ、監督生も別に怖がらなくていいからね!?」
「は、はい」
 しまった、なんかむしろ怖がらせてしまったかもしれない。
「ほかの先輩たちにも挨拶行こっか」
「じゃあ、また後で」
「うん、」
 歓迎会について康ちゃんが闇鍋と言っていたことはなんとなく黙っておいた。
 二年生が新入生を連れて出て行って、談話室にはまたならちゃんと俺。
「……そういえば今日、エイプリルフールじゃね?」
「ああ!? あれエイプリルフールのネタだったの!? あっだからあえての『四月一日に来た四月一日くん』!?」
「な、気がしてきた」
「あれ、じゃあもしかして、闇鍋もネタっつーかまた騙された……?」
「さあ……?」
 新年度になった今日も太白寮は通常運転、平和です。


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サークル名:サテライト! (URL
執筆者名:古月玲

一言アピール
雑多にささやかなお話を書いています。大体半径1.5mくらいだったり、日常のちょっと向こうのことだったり。
『太白寮小景』は、中高一貫男子校の小さな寮を舞台にした掌編シリーズです。

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