スプラッシュスロッシャーフェスト!

――フェスの開催が告げられた。

「ぱらっぱぱっぱっぱーん!!」

俺、鷹峰咲!訳あって無職のアラフォー(ということにする)!詳細はあんまり話したくないので一切合切カット!今はこれも理由あって、なんと人魚の子供と同居生活を強いられている。望んでじゃなくて完全に強いられているので、もういろいろと察して欲しい。つらい。いやそんな辛くはないです。
今その人魚の子供はと言うと、俺が小学校のときにもらった絵の具セットのバケツを庭でめちゃくちゃに振り回している。あのバケツ、筆洗ヒッセンって言うんだとさ。俺も最近まで知らなかった。

「みかんはしゃぐのいいけど縁側に水掛けるのはノーだ」
「かけてない」
「そう……」

三分強目を離しているうちに、庭はもうびっしゃびしゃのぐしゃぐしゃにされている。ここ最近快晴続きでよかった。楽しそうなのでまあいいとして、俺は黒いコントローラーを握り直した。
リビングの無駄に大きいテレビの置かれたテレビ台には、所狭しと様々なゲームハードが詰め込まれている。言うまでもないが犯人は俺と愚妹――一番下の妹のシキ(なお長女)が主だ。さすがにスーファミ辺りは俺のせい感はちょっと薄い。
そのハード群の中で最も新しいハード――そう、もうお分かりいただけただろうがニンテンドースイッチ、そのプロコントローラーを握りしめた俺は、画面の中で開始の時を待つイカたちを凝視していた。

「……」

もう完全にお察しいただけただろうけど、スプラトゥーン2だ。初代のときもドハマりした俺は、主にマニューバー系使い。クソ愚妹には『二丁拳銃とか中二病か?』とクソほど煽られたが、あれ使ってるときのスライド回避はめちゃくちゃかっこいいので仕方ない。かっこよさで言えばスピナー系もかっこいいけど、あれは個人的には難しいので駄目。
もちろんスイッチはほぼこのためだけに買ったが、マリオカートは8があるのにも関わらず8DXを買ったし、ウルトラストリートファイター2もなんだかんだでめちゃくちゃやった。ゲームには勝てないし勝たないということがよく分かるし、この歳になっても独身だということでもうお分かりいただけただろうか。あっこれ言ってて自分でとてもつらい。聞かなかったことにしてください。

「おっクソ兄ガチマ捗ってますか!」
「C帯魔境でちょっと駄目」
「それな」

俺は視線だけでやってきた愚妹に、庭のみかんを見ておいてと頼んだ。言ってる側からガチマッチが始まってしまったので、あとはもうめちゃくちゃそっちに集中することにする。

「よっしゃ!みかん~お姉ちゃんと遊ぼうぜーじゃあ姉ちゃんオオモノシャケな!!」
「ああ~やだ~!!」

何やってんだ愚妹。
ここ最近俺(と愚妹)がスプラトゥーンをやっているのを横でずっと見ていたみかんは、すっかりイカ語(?)と登場するブキの種類を覚えてしまい、挙句スプラシューターが欲しい……とかごね始めた。そこで登場したのが、俺の小学校のときの筆洗だった。
というのも、そのものずばりヒッセンというブキがある。前作でバケツ系はさっぱり触ったことのなかった俺が、みかんを黙らせるためにめちゃくちゃにヒッセンをゲーム内で振り回し、そして満を持して部屋から筆洗を出してきたのだ。あの時の目の輝きっぷりと言ったらそりゃもう、今も付き合いのあって、みかんのことを知っている友人には全員に話して回ったくらいにはすごかった。俺の筆洗はゲームのヒッセンと違って黄色一色のやつだったので、みかんコラボとか適当なことを言って誤魔化した。それで通ったし、今では俺の筆洗はみかんによって好き放題デコられている。まあもう使わないものだしいいと思ってるけど……。
ところで俺は今相手チームのヒッセン使いにボコボコにされている。なんだこのブキ。範囲広いし振り速いし一撃が強いし。

「あっみかん!今ヒッセンが兄ちゃん殺した!」
「まじか!みかんつよいな」
「みかん超強いな~」

みかんに殺されたわけじゃないし俺は死んでません!
そうキレている時間も惜しい。というか、そんなことをしている暇があったら急ぎ前線に戻らないといけない。

「ヒッセン~がんばれ~」
「みかん相手のヒッセンじゃなくて俺応援してよ俺」
「たーみねがんばれ~」
「そうそれでいいそれでオアアーッ!!よし取った!!勝った!!」

今、というかここ最近必死でスプラトゥーンに励んでいるのは、フェスの開催が告げられたからだ。
ゲーム内の街はそのものずばりのお祭り騒ぎ、丸一日の競い合い。イカ……もといインクリングどもは、随分と享楽的な生き物なんだという。水族館とコラボしたと聞いてみかんがめちゃくちゃ行きたがったけど、遠かったので諦めてもらった。あと俺が行きたくないので、行くならシキに連れて行ってもらうことになるんだろうけど――やっぱり遠くて無理だ。許して欲しい。
俺も毎日そのくらい享楽的に過ごしたいものだけど、ちょっと現実が厳しい。世界は優しくない。

「やった~らららっずったんたーん」
「そういやフェスいつだっけ?」
「明日……」

訳あり無職の時点で、享楽的っていうのはもう結構厳しい気がしている。
まあそれでもいいです、というか、ぶっちゃけると生きているだけで御の字だ。仕事中の事故(ということにさせてほしい)で生死の境を軽く彷徨って、今はまあ……後遺症がちょっとあるくらいで、基本的に日常生活にそんなに支障はない。元気にゲームもできるし。

「あっそれで……急ぎでギアを……」
「もう全然ヒト速が出ない……つらい……」
「たーみねーみかんもイカしたい」
「おっいいぞーちょっと待ってな」

ゲームしている間は、いろいろと忘れられるというのもあって、昔以上にのめり込むようになった。単純に時間もあるからだ。なんてったって無職だからね!別に仕事が嫌いだったわけじゃないし、むしろあの仕事は好きだったし楽しかった。けど、きっともう戻れないし戻らない。
スイッチのアカウントを切り替えてやる。俺が一から作ってやったみかんのMiiは本人によく似ていたけど、髪の色だけは再現できなくてどうしようもない。Miiのみかんは黒い髪をしているのは、俺とおそろいがいい!と言われたからだ。

「みかんねー今日はころころするの」
「ローラーかあー。頑張ってたくさん塗れな」
「あーい」

緑とピンクの色とりどりのロード画面は、しばらくずっと見ることになるのだろう。デフォルメされたイカが画面を泳いでいく。
このゲームのイカ……インクリングって名前がちゃんとあるんだけど、ちゃんと手足が頭の髪も合わせて十本あるし、結構リアルのイカと見比べても面白い。

「クソ兄ー。あれ買ってきたらいいんじゃないあの……ゴミ取るやつ……」
「ゴミ取るやつ」
「……ローラーじゃん……?」
「そうだね……めちゃくちゃ小さいし使ってもきれいになるから微妙な顔されそうだけどね……」

みかんの手には、スイッチのプロコントローラーはずいぶん大きい。
ゲームもそんなに上手いわけじゃないけれど、やってるところは楽しそうなのでよいとする。楽しんでもらえるのが一番だから。

「まんめんみ!」

虚構のお祭りまであと少し。
一日くらい自分だって、享楽的なイカになって、インクの中を泳いで、好き勝手にインクを撒き散らしたい!
――というのはどう足掻いても叶いそうにないので、ゲームの中の祭りを楽しむことにする。コントローラーを握っている間は、自由に泳げるのだから。


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サークル名:まよなかラボラトリー(URL
執筆者名:紙箱みど

一言アピール
これはトラックによって磨かれた我が趣味の咆哮!!(塗りポイントは稼いでるのに原稿が白くて駄目です)
ただの暴走トラック(二人乗り)です。色んな人に積載荷重オーバーと言われながら暮らしています。

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