僕は、今度こそ告白しようとしていた。
 夏祭りのこの日この時、この場所で。
 屋台通りを離れ、中心からも外れて、それでもまだ祭りの空気の中。
 ひと気は、僕と彼女の他にない。
 彼女は微笑んで僕の言葉を待ち、片手で帯から下げたタブレットをなでていた。
 浴衣だった。
 Tシャツとジーパンで来たことを後悔する。
 いつもは流している髪は結い上げられ、ふわりと艶めいた唇がきらめく。
 彼女との付き合いは長い――幼馴染として。
 幼稚園で親同士の仲が良く、僕たちもよく一緒にいた。
 意識しはじめたのは――いつからだろう。
 高校生になってカノジョがほしくて、ということじゃない。
 ふとした時の色気だとか、みんなの前と二人の時では違う顔だとか、本を読んでる瞳だとか、細かな「いいな」が積み重なってきた。
 彼女はどう思っているんだろう。
 腐れ縁? 姉弟きょうだい? それとも……?
 僕は緊張して、気ばかり焦って、切り出せずにいる。
 今までもそう。毎回、気持ちと口がかみあわない。
 お祭りの音が二人の間に流れてくる。
「あっあの――」
 上ずっていた。
 見つめる彼女と僕の背丈はほとんど変わらない。
 咳払いをして次を絞り出そうと――した時だった。
 彼女の背後に巨大な光の玉が現れた。
「えっ?」
 僕の視線に振り返った彼女は「わぁ」と緩く言った。
 甘い香りが漂う。
 なにこれ――
 何かするよりも前に、その光が視界いっぱいに広がってきた。
 守らなきゃ。
 とっさに僕は彼女を引き寄せて――意識が途切れた。

 世界には、MANAがある。
 自然物ではなく、ナノマシンらしい。
 タブレットとかで開く電子書籍からMANAを使って色々なことができるこれは『電書魔術』と呼ばれはじめている。
 端末だけでは使えないようで僕は使ったことはないけど、お祭りの照明に電書魔術が使われることも増えた――と、一時間くらい前に彼女から聞いた。
 ほかにも、魔術焼きそばとか、端末で撃つ射的とか、MANA製のポイで小型メカ海洋生物をすくうやつとか、昔ながらのものと電書魔術を使ったものが混ざった縁日になっていた。
 華やかな色とりどりの光とか妖精みたいな映像が飛んでいったりとか、見ていて飽きない。
 お祭り周辺のMANAが増量されてる、とも彼女から聞いた。
 詳しいなと言うと、彼女は笑って「ちょっと使ってるんだ」と帯から下げたタブレットを示した。
 浴衣には不釣り合いに見えたけどすぐ見慣れたし、彼女らしいとも思った。
「どんなの使ってるんだ?」
 そう聞いたのは三十分ほど前。彼女と屋台を楽しんでいる途中。
「難しいものじゃないよ。傘がわりに雨よけるのとか、自転車乗ると追い風にしてくれるのとか」
「空飛んだりとかじゃないんだ。戦うとか」
「あるけどね。昔の本にあった魔法使いのスポーツの実現とか、格闘技も。でも競技とか高度なのを使うにはライセンスが要るよ。車とかと同じ。自転車は免許いらないけど、車はいるでしょ」
 苦笑して続ける。
「私が使ってるのは日常系電書魔術。すごいことはできないけど、ちょっと便利、みたいな」
 そんなものなんだ。
 関心は湧くけど、電書魔術よりも彼女への興味が上回っていた。
 光に包まれたとき、彼女を受け止めたのを思い出す。
 そのまま彼女を上にして倒れて――
「っ!」
 目が覚めた。
 星空が見える。
 周りは静まって、さっきの光は消えていた。
 背中の感触が地面じゃなくて、体を起こそうとして――転がる。
「うわっ」
 彼女の声がする。
 無事だったと安心するのと同時に違和感。僕の口から出た、ような。
 地面に着いた手は女の子のようだった。うしろで「ううんっ……」と男の声がして振り返ると――僕がいた。
 えっ?
 その『僕』を揺り起こす。
「あ……あれ、んっ……私?」
『僕』が僕を見ていた。
「え? あれ――ええっ?」
 口調に十数年一緒にいた馴染みの雰囲気がある。
 自分を見ると、彼女が着ていたはずの浴衣姿で、丸く胸がある。
「も、もしかして……」
「私とあなた――」
「入れ替わってる!?」
 まさか。

 彼女が「触ってもいいよ」と言うので、体をそっと触る。
 胸のふくらみ。股間は浴衣の上からでも何もないのが判る。
 彼女も自分の――『僕』の体を探っていた。
「男の子のってこうなってるん――」
「や、やめろよっ」
 覗き込むのを止めようとする。
「いいじゃない。昔は一緒にお風呂入ったし。今は私の体だし」
「そう――だけど」
 どうにも恥ずかしい。
 僕は『彼女』の体にそんなに触れられないでいるのに。
 並んで座る。
「足広げないでよ」
 そう言われて膝をそろえる。女の子の浴衣を着て、さっきまで自分だったはずの男の隣にいることが信じられない。
「えっと……どうしよう」
 落ち着かなくてそんなことを言うと、彼女が僕に密着してきた。
「え、ちょ――」
「ちょっとごめんね」
 彼女は僕の口でそう言って、僕の腰にあったタブレットを取っていった。
 ささっとそこに指を走らせて、画面を真剣に見つめながら小さく頷いて、僕を見る。
「さっき何か言いかけてたけど、何だったの?」
「え? いや、それどころじゃ……」
「言ってくれよ」
 彼女の口調が変わった。男っぽい。
 どうしてこんなに落ち着けるんだろう。
「そんなことより――これからどうするんだよ」
「いいじゃん。お互いのこと、小さい頃から知ってるんだし。で、言ってよ」
 僕を覗き込んでくる。
「いや、あの……」
 混乱した中に、こうなりゃヤケだ、という思いが差し込まれる。
 僕は拳を握って『僕』――彼女と向き合う。
「す――好き、なんだ、っ」
 言った。
「うん」
 彼女が頷く。
「わた――俺も、好きだよ」
 そんな口調だと、中身は彼女なのに男に言われたような気がする。
「付き合いた――かったんだけどこれは……」
 早口になっていた。
「でもずっと好きだったんだ。ほら中学で――」
 一度言うと、今までの心の防壁が決壊したようだった。
 抱き寄せられる。
「俺も、きみならいいなって思ってた」
 何か引っかかる。彼女はこんなに積極的だった?
 肩に回された彼女の――『僕』の手は、僕のじゃないように白く細く、節ばっていなかった。
 もしかして――
「これ、電書魔術?」
 目に見えて彼女が狼狽した。
 タブレットを隠そうとするところに手を伸ばす。
「きゃっ」
 男声の悲鳴。
 僕が――浴衣姿の女子のようになっている僕が、男を装った彼女を押し倒していた。
「ご、ごめんっ」
 彼女から降りて、引き起こす。
「――でもなんで、こんなこと」
 彼女は三角座りになって、地面を見つめ始めた。
 僕は、彼女の答えを待つ。
 そういえば、何時なんだろう。
 僕の腕時計は、彼女の手首にあった。
「――勇気が、欲しかった」
 ぽつりと彼女が言った。
「明るいきみに憧れて、惹かれてた。告白しようとしてることも、気付いてた」
 ゆっくりと、潤んだ声をこぼし、僕は緩い相槌を返す。
 驚きと戸惑い――それでも勝る彼女への想いで、怒れないでいた。
「いっそこれくらいしたら、勇気出せるかも――きみも思い切れるかも、そう思ったんだ」
 図星だった。
「夏祭りにきみが誘ってくれた時、チャンスと思った――けど、こんなにすぐにバレるなんて、ね」
 彼女が苦笑を見せて、タブレットにそっと触れる。
 ざあっ、と細かなモザイクが崩れるような光が舞う。
 服はTシャツとジーパンだけど、彼女の姿に戻る。
 僕は――女の子のようになったままだ。
 胸もまだある。
 下はまだない。
「どう、やったんだよ」
 黙ると彼女が泣き出すんじゃないかと怖くなって、話題を逸らすように聞いてみる。
「いろいろ」
 彼女がタブレットを見せる。
 数式とか図とか色々出てるけど、僕にはよく解らない。
「股間の、その、アレを体内に押し込めて、胸と髪を作って、ボイスチェンジャー仕込んで、肌には皮膜状のテクスチャを形成して乗せて――そんな、複合魔術。
 作るのけっこう大変だったんだよ。リソースも増えちゃって、だからお祭りみたいな増量してるタイミングでないとできそうになくて――」
 そういう問題じゃない。
 僕は小さくため息をこぼす。
「もういいから――戻してくれよ」
 え? と目を丸くする彼女に言う。
「今まで告れなかったのも確かだしさ」
 踏み切れなかった自分を嘲るように笑う。
「そのつもりで夏祭りに誘ってもあの通りだったし。ここまでされたから、もうどうにでもなれって思えた気もする」
「――優しいね」
 しっとり微笑む彼女が可愛い。
「それに、やっぱり、好きだから、っ」
 二度目の告白で少し緊張がよみがえる。
「ありがとう」
 彼女がタブレットを操作しはじめた。
 びっくりしたけど、これで戻れるなら、そして彼女と付き合えるなら――そう思っていた。
 浴衣は彼女が着ていたものだから、体を変身させてから服を交換したのか。
 ということは、戻ったら脱ぐ――!?
 妄想が破裂しそうになる。
 体はまだ戻らない。
 彼女を見ると、何度も画面に指を走らせている。
「どうしたんだよ」
 覗き込むと『MANAが不足しています』とあった。
 イヤな予感がする。
「えっと、ね、お祭り終わって、さっきのでMANAが――なくなっちゃった」
 困ったような、泣きそうな目で僕を見る。
「それって……」
「解除用のMANAが――足りないの」
 少し震えた声で言って、頭を下げた。
「ごめんっ、もうしばらく女の子でいてっ」
 えええっ!?
 言い返せない僕の手を彼女が握ってくる。
「おばさんには私から説明するし、フォローする。二学期までには何とかするから――きっと、たぶん」
 彼女の真剣な瞳に気圧される。
 突き放せないし、体のこともあるし、何より嫌いになれなくて、僕は頷いていた。
 彼女は自嘲気味の笑みを浮かべて、言う。
「ホントごめん――って謝っても、後の祭り、かな」


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サークル名:亜細亜姉妹(URL
執筆者名:あきらつかさ

一言アピール
こちらは「最近の作風」なのを。男の娘とかTSFな話を最近は出していますが、伝奇もののシリーズや電脳伝奇やファンタジーもあります。世界観共有企画『タブレットマギウス』も。よろしくお願いします。

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