草刈忍者はハロウィーンできるのか?

「いいか。ここは一つ、草刈忍者にふさわしいハロウィーンをしよう。
カボチャのパイをかけた、仮装大会だ!」
 これが、おやじの言い分だ。
 おかみが作った美味しいパイは、七等分にするには小さかった。だから、勝負してくれってわけだ。勝ち残った一人だけ、カボチャのパイにありつける。
 仮装大会は明日の朝、開かれる。審判員はおやじとおかみ。プロの草刈忍者でもある二人をうならせる仮装をしないといけない……どうしよう。末っ子のぼくに勝ち目はあるだろうか。とりあえず、兄姉たちに話を聞いて回ろう。
 十二歳にして最年長、しっかり者のゲツの答えはこうだった。
「まず知識を蓄えるべきだと思う。一緒に、図書館へ行かないか?」
 丁重に断った。ひとたびゲツの図書案内が始まれば、それだけで日が暮れてしまう。
 念のため、カァ兄さんにも尋ねてみた。
「は? これは勝負事だ、手の内を明かすわけないだろ。心配しなくてもパイはこの俺様が(略」
 はいはい、どうせそう言うだろうと思っていました。
 スイ姉さんは、おかみの衣装箪笥を探っている。まさか、本気でおめかししてくれるのだろうか。
「え? うーん、そうねえ。仮装大会とか言いながら、結局は奪い合いになりそうな予感がするわ」
 ぼくもそう思う。おやじのとんだ思いつきに振り回されるのは、一度や二度じゃない。
 最後に、外へ出かけようとするモク兄さんにも聞いてみた。
「それより、昨夜の雨でキノコが新しく生えたんじゃないかと思うんだ! 採りに行こうぜっ」
 即、断る。話にもならない、とはこのことだろう。
 はあーあ、困ったな……。
 畳に寝転んでうだうだしていたら、天井の穴から子猫が顔を出す。耳と手足先だけ白くて、あとは真っ黒な黒猫だ。
「にゃーに良い案があるにゃ! にゃーの方法なら、キンの優勝、まちがいなしにゃ」
 しゃべり猫は目を輝かせているけれど、ぼくは眉間にしわを寄せる。
 わかっている。本当の目的は、パイにあるんだろう? 横取りしてでも、食べる気満々なんだ、こいつは。
 無言の抵抗を続けたら、猫も観念してくれたよう。
「もちろん、パイはキンと山分けにゃー」
「そうこなくっちゃ!」
 こうして、作戦会議が始まった。ぼくとしゃべり猫でコンビを組むなんて久しぶりだ。上手くいくといいけれど。

 明くる朝。ちゃぶ台を囲むのは、ぼくと猫、おやじとおかみだけ。あとの兄さん姉さん達は、着替えが大変なようで、朝から姿を見せなかった。どんな演出か、楽しみだ。
「まずはゲツからだな」
 おやじの呼び声。払いのけられた暖簾のれんから、ゲツが蟹歩きで登場する。格好は普通の体操服姿で、特に変わった点は見られない。
 おかみが優しく呼びかけた。
「ゲツ、あなたの仮装について教えてくれないかしら?」
「僕のコンセプトは、」
 くるり、と正面を向く。あっと息をのんだ。
「人体です!」
 なんと言うことだろう、ゲツの左半身は赤と白の筋模様に覆いつくされている。笹の葉を赤に染めたものを筋肉の筋にみたて、編みこんだようだ。
「図書館で調べました。人体を構成する筋肉の位置がわかれば、効率の良い体の動かし方もわかるのでは、と思って」
 さすがゲツ! 賢い。顔にまで赤いペイントを塗っているところ、器用な性格が表れている。
「ほほう、興味深いな。しかし、実際にその筋肉を動かすことはできたのかな?」
 おやじの鋭い指摘に、ゲツは言葉を詰まらせてしまう。そうか、笹の葉を組み合わせたそれはあまりにもろく、今にもばらけてしまいそうなのだ。
「……できません」
「発想は評価するが、素材の組み合わせがよくなかったな。おしい!」
 ゲツは一礼すると、肩を落として退場した。
 あのゲツの案でさえこの酷評、この先一体どうなるのだろう。なんだか、緊張してきた。隣のしゃべり猫はのんびりあくびしていたけれど。
 次は十歳の三人組、カァ、スイ、モクと続くはずだ。
 兄姉のなかで最も欲張りさん、カァが登場する。彼のことだから、得意の鎖技とか派手な演出をしてくるかと思ったけれど。
「Trick or Treat! かぼちゃのお化けだー! パイをくれなきゃ、いたずらするぞ」
 カァはカボチャのくりぬきを頭にかぶった出で立ちだった。ああ、普通のハロウィーンだ。
「あら、カァにしては素直じゃない」
 おかみは笑っているけど、おやじは腕組みをしている。
「斬新さに欠けるんじゃないか?」
「いや、ちがうんです。表はカボチャのお化け、でも裏は……」
 かぼちゃ頭を裏返せば、そこには別の穴が。バナナの形にくりぬかれてある。カァが食べたいのはカボチャよりも、大好物のバナナというわけだ。
「ああ、実に忠実だな。さ、次はスイだぞー」
 カァのネタは一瞬で流されてしまった(優勝するのは俺だって、あんなに豪語していたのにね)。
 スイの番が回ってきた。白いワンピース姿で登場する。あのスイ姉さんがスカートをはくなんて、初めて見た! ワンピースの彼女が登場しただけで、場が盛り上がる(ゲツもカァも、暖簾からのぞき見ていた)。
「ええと……私がやりたいのは……」
 慣れない格好をして恥ずかしいのだろう、スイはもじもじしている。
「これです!」
 スイが取り出したのは、霧吹きだ。服のしわをのばすのに使うやつ。
 スイは天井に向かって霧吹きを使う。細かな水滴が拡散し、降ってくる。それにあわせて、スイ自身も、くるりと回ってみせた。
 ふわり浮かぶスカートと、水滴があわさった。刹那、水滴は氷の粒になり。朝の光をうけて、キラキラ輝く。まるでダイアモンドが散りばめられたよう!
 一同、あまりの美しさに見とれていた。歓声をあげたかった。けれどそれより先に出たのは、大きなくしゃみ。
 寒い。なんだこの寒さは、尋常じゃない。体が震える。
 スイが慌てふためく。
「ごめんなさい! まさかこんなことになるとは」
 スイは寒さに強すぎて、加減がわからなかったのだろう。真夏だったら良かったのに、魔法の副作用が勿体ない演出になってしまった。
「霧吹きは、もうこりごりだ。次、モク!」
 おやじが呼んでも、モクは出てこない。どこへ行った? 場がざわついたそのとき、彼は開かれた窓から飛びこんできた。宙でとんぼ返りを華麗に決めて、着地するも……床に張った氷にすべり、すってんころり。
 スイが助け起こしに向かったけれど。差し伸べた手で、モクの頬をビンタしていた。
「なんで裸なの!」
「野生児になってみたのさ。大丈夫、大事なあそこは葉っぱで隠してある」
「信じらんない、モクのバカ!」
 スイはモクを見捨てて逃げた。ほぼ素っ裸なモクは、苦笑しながら立ち上がるも、盛大なくしゃみを吹きかけてきた。
「へっくしょい!」
「もういい、帰れ!」
 おやじが怒るのも当然だろう。退場する野生児モクに、毛布をかけてあげたのはカァだ。なぐさめあっているようだった。
 おかみがぼくを見る。いよいよ、勝負の時がきた!
「最後はキン、あなたの番ね」
 まず、しゃべり猫が話を始めた。
「いざというとき、忍者は動物のモノマネをして逃げる、と聞いたにゃ。猫になりきる為に、欠かせないポーズを、キンに仕こんだにゃ!」
「ほう、猫に直接教わったのか。見せてみろ」
 手作りの猫耳を頭につけた。深呼吸して、気を落ち着かせる。
 手はぎゅっと握って、上目づかいで、甘えるように……
「にゃ~ん」
 手をくいくいっと動かして、顔を洗う真似もしてみせた。
「かわいいー」
 スイは満面の笑みで喜んでくれる(良かった)。モクは何を考えたか、猫じゃらし草を引っこ抜いてきたけれど。本物の猫の突撃をくらって台無しになっちゃった(そりゃそうだ)。ゲツはいつの間にか、ぼくの側に陣取って食い入るように見つめてくる(近すぎるように思うのは、気のせいかな)。
「うむ。よくできている」
 おやじの第一声に、心が跳ね上がる。やった! カボチャパイは、このぼくのものだ。
「だが、残念だったな。言ったはずだ。忍者は常に質素で、気づかれないくらいの格好でいなければならない。キンのそれは、あまりに可愛すぎてダメだ」
「ええー、そんなぁ!」
 それでは、普段の練習着が正解、ということになってしまうじゃないか。
「今回の仮装大会では、優勝者は無しだな」
 言いきるおやじに、モクがかみつく。
「こんなに頑張ったのに、そんなのありかよ」
 服を脱いだだけのモクが言うのも変な話だけど、気持ちはわかる。
 カァが尋ねた。
「じゃあ、全員でパイを分けて食べるってわけか?」
「いいや、おあずけだ」
 おやじは頑として首を縦にふらない。どうしたんだろう。ゲツが問い詰めた。
「カボチャパイは確かに昨夜まであったのに、今朝からは見ていない……何かあったのですか?」
「うっ」
 モクがつぶやいた。
「今朝から、山の動物たちが騒がしかったんだ。もしかして、パイは動物にあげちゃったとか?」
 おやじは、がっくりと項垂れる。なんてことだろう! これには、スイもぼくもがっかりだ。
「そんなぁー」
「聞いてくれ。だましたわけじゃない。仮装大会で決着がつかなかった時に備え、山に隠しておこうとした、それだけのことなんだ」
 おやじはついに、頭を下げた。
「すまない」
 一方のおかみは、すまし顔だ。もしかして、おやじがパイを無くしてしまったことを、仮装大会が始まる前から知っていたのかな。目があえば、微笑んでくれる。
「皆、大事なことを忘れてないかしら?
カボチャはまだ畑に残っているのよ、自分で調理しないと。
食料は自力で確保する、それが忍者の基本でしょう」
 仮装大会はカボチャの料理教室になっちゃった!
 
 提灯ジャックが微笑の灯火を掲げる頃。
 カボチャとキノコのスープに、カボチャプリン、カボチャパイだって復活した(ぼくはプリンを作ったんだよ)。七人と一匹で、おいしくハロウィーンを祝ったんだ! ごちそうさまでした。

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サークル名:ひとひら、さらり(URL
執筆者名:新島みのる

一言アピール
草刈忍者ワンウィーク隊によくある、予定変更の話をお届けしました。本編では子ども五人だけワープした先で、国をまたぐ重大事件に巻きこまれます。全ては、鶴子姫を救うために。モクも服を着て戦います。「草刈忍者はNINJAなのか?」その答えはぜひ、本編を読んでお確かめください。テキレボ初参加・初公開です!

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