海の上より、空の向こうの友人へ

佐倉柚歩さくらゆずほです。ご無沙汰しています。ドラゴンに襲われましたが、なんとか生きています』
 遠く離れた親友からのメールは、そんな書き出しから始まっていました。

「あ、きりちゃん、さきちゃん、やっほー!」
 惑星レアルフを周回する恒星間航宙艦“ゆりかご”の円筒型重力居住区の一角。
 メインシャフトの人工太陽が小春日和を再現した午後三時。
 休日のお昼下がり、最上層市街第二十四区のカフェ“メリー・メリー・メアリー”のオープンテラスに二人は座っていました。
「遅いわよハナ」
 責めるような言葉のわりに、嬉しそうな笑みを隠さないのは萩村桐音はぎむらきりね
「時間内だからセーフだね。残念。あと三分で何か罰ゲームしてもらおうかって桐音と話してたところだったのに」
 同じようにいたずらっぽく笑うポニーテールの女の子は周防美咲すおうみさき
「うえっ!? あぶなー……。間に合ってよかった」
 そして、最後にやってきたセミロングの女の子が長坂心華ながさかこはな
 三人とも別々の制服を着ていますが、歳は十七で同学年です。
「二人ともごめんね。ちょっと学校で……」
「休みの日に補習? また英語とかで赤点スレスレだったんでしょう」
「先生に合成食材の試食に誘われちゃって」
「「ええー……」」
「いや、最近工場ものの作物とかみんな降下隊ゆずちゃんとこに送ってるでしょ。だから先生たちも栄養ある葉っぱとか根っこを合成もので再現できないか頑張ってて。私も手伝わせてもらったやつだったから気になって……」
「そういう野菜って工場でポコポコ取れるから、合成する必要なかったやつだもんね。あたしらも地味に追い詰められてるなー……」
 美咲の言うとおり、葉野菜や根野菜は古くから工場栽培が発達していて、宇宙でも広く手軽に食べられる生の食材。
 これまでは合成に頼る必要は少なかったのですが、ここ最近は雲行きが怪しくなってきていました。
 その理由は、惑星レアルフへの降下計画です。
 ほぼ無人の小規模大陸に無人機械で地上基地を建設。そこに食糧も含めた物資を十分に集積させたところまではよかったのですが――。
「半年分の食糧が荒野の上で埃かぶってりゃ、そりゃあね……」
 第一次降下隊の母艦“あけぼし”が想定外の事故に見舞われ、地上基地から数千キロ以上離れた場所に落着してしまったのです。
 こうなれば事前に下ろした物資はまるで役に立ちません。
 少ない手持ちで頑張る降下隊に、ゆりかごからは食糧や工業製品をはじめとした支援物資を絶えず耐熱コンテナに詰めてあけぼしへ送り続けています。けれども、肝心の降下母艦あけぼしは原因不明のトラブルで航行不能、現地で十分な物資を調達できるめども立たないという状況です。
 かといって、ゆりかごとて地上基地へ余剰物資の大半を吐き出した後。十分な余裕があるとは言えません。
 そこで、食糧の消費を抑えるため、一部の人員にはコールドスリープが推奨されはじめたのです。
「このお店も、もう店長さんいないしなー……」
 彼女たちがいま集まっているカフェも、店主さんは先日からコールドスリープに入っています。
 それでもまだ開店しているのは、行政が激変緩和措置をとっているため。市から受託された安価な接客用ロボが接客を代行したり、メニューを工場の既製品で代替してくれているからです。それも規定の期限がくるか、物資統制がさらに厳しくなれば、このお店も本当に休店してしまうでしょう。
「うなー! 暗い話禁止ー!」
 そんな雰囲気に耐えかねたのか、心華が二人の前で両手を振り回しはじめました。
「今日はゆずちゃんがメールくれたお祝いで集まったんだから、楽しい日なんだよっ!」
 事実、落ち込みかけてた二人はそんな心華を見て、お互いに苦笑い。
「そだね。ごめん心華。あたしらが悪かった。よしよし」
「分かってくれたならいいけど、なんで私はさきちゃんに撫でられてるのかな……?」
「ハナは可愛いものね。……いろんな意味で」
「よくわかんないけどバカにされてる? されてるよね?」
 そうして三人は賑やかに騒ぎながら、それぞれここにいない一人を想います。
 今日、ここに集まるきっかけとなった幼なじみのことを。

 先日、三人の元へメールを送ってきた親友の名前は、佐倉柚歩。
 飛び級で情報技術者の専門課程を修了し、最年少で第一次惑星降下隊に参加した三人の幼なじみ。
 その彼女から、降下後初めてのメールが届いたのです。
「で、で、みんなはもうゆずちゃんのメール読んだ!?」
 携帯端末ブライトワンドを取り出し、心華はテンション高めに二人に聞きます。答えは当然、
「ってか読んだからここに来たんでしょーが」
 美咲が笑いながらツッコみます。大事な親友からの手紙なのですから、読まないはずはありません。
「無事でほんとよかったわよね。ニュースで不時着って速報が出たときは血の気が引いたけど……」
 桐音が言うように、メールのはじめの方は、ニュースで聞いた内容とあまり大差はありません。
 降下母艦あけぼしは、原因不明のトラブルで予定のコースを離れ落下。
 現地人類の人口密集地へ落下しかかっていたところ、懸命な操舵の甲斐あってか、どうにか都市近傍の海上に不時着させた、とのこと。
 しかし、あろうことか湾の底に潜んでいた現住生物――ドラゴンに襲われたのです。
「ゆずちゃんがドラゴンさんに食べられなくてよかったねー……」
「あれでしょ。あけぼしにでっかい大砲を積んでたからなんとかなったっていう」
「桐音。でっかい大砲じゃなくて、四十六センチ電磁加速式速射砲ね」
「めんどくさいツッコミありがとう美咲……ってか今のよく噛まずに言えたわね!?」
 そこで美咲はなぜかのドヤ顔。それを見た心華も、
「よんじゅうろくせんちでんじかそくしきそくしゃほう?」
「心華も言えるんだ……」
 そのとき、桐音の心によくない衝動が湧き起こりました。そして深く考えず、その衝動に乗っかってしまったのです。
「よんじゅうろくせんちでんじかそっそっそ……しゃ……んがー!」
「きりちゃんがキレた!」
 残念ながら大人になってもキレてしまうときはキレてしまうのです。
 閑話休題。
「こほん。そんなことより、これ。現地の画像だって」
 照れ隠しに、桐音はブライトワンドでメールの添付ファイルにあった画像の一つを開きます。
 あわせて三人の視界に投影されるのは、軍艦の甲板っぽい場所に堂々とそびえ立つ板状の物体の画像。
「すごいよねー! ドラゴンの鱗って、こんなにおっきいんだ」
 巨大な鉄板……のようにも見える鱗は、隣に立ってピースサインを向けている少女の身長の三倍ぐらいあります。
「この子って、あれ? ゆずちゃんと同い年の――えっと」
「伏原明里ちゃん、ね。お母さんが現地人類の言語学の研究者で、小さい頃から研究室に入り浸ってたっていう柚歩と同じ天才少女」
 名前が出てこなかった心華の代わりに美咲が補足します。
 伏原明里。現地人類の言語研究員で、柚歩と同い年の降下隊最年少メンバー。柚歩のメールによればその縁で仲良くなったのだとか。
 文面の端々からも二人が仲良くしているらしいことが伝わってきています。
「というか絶対デートだよねこれ。こはなさん的にはうらやまけしからんところです」
「ハナも大概ユズに過保護よね……」
 複雑そうな顔をする心華に呆れながら、桐音は次の画像を繰ります。
 次いで写されていたのは、お魚料理。カルパッチョのようです。
「うわぁお魚いいなぁ!」
 メールによれば、現地の湾内で採れた天然物だとか。人型航空機で時々引き網漁をやり、食べられる魚を数量限定で食堂にて提供しているといいます。
「大水槽で養殖してる生ものはなかなか食べられないからなー。あたしも食べたい」
「貧乏人は合成大トロで十分よ」
 桐音がちょっとすねてしまったので、美咲は苦笑しながら画像を次へ進めます。
 集合写真のようでした。柚歩の他、降下隊の制服を着ている人たちが大半ですが、中央にひときわ異彩を放つ女の子が一人いました。
「お、この子が噂の……」
「超美人さん! お人形さんみたい!」
 心華が声を上げたのも無理はありません。銀髪で、独特の民族衣装に身を包んだその子こそ、惑星の上で生まれ育った地球外の女の子。
「ティルヴィシェーナ・カンネ・ユーディアリア……ってまた噛みそうな名前ね……」
 眉をひそめながら読み上げる桐音。今回は噛みませんでした。本人はこっそり安堵しましたが、それは置いておいて。
「現地の言葉をそのままカナ読みしたんかな。愛称のティルちゃんって言う方が呼びやすくて可愛いね」
「美人さんというか可愛いと綺麗の間ぐらいかな? 同い年だっけ!?」
「たぶん同い年かちょい下ぐらいって書いてあるでしょ」
 さらに付け加えて『可愛い子です。きっと心華さんも気に入ると思います』とも書かれていました。幼なじみは伊達ではありません。
「いーなー会いたいなぁ……しかもお月見イベントとか……参加したかったよぅ」
 彼女の歓迎会として、あけぼし甲板上で十五夜のお月見イベントが開かれたらしいことも書かれていました。
 写真には、特設設ステージらしき場所で踊っているティルの姿も写されています。
「あたしらが降りられるまでは、まだちょっとかかるかもね。でも――」
『ティルさんが、あけぼしの落下原因が分かったと言っていました。もしかしたら上手くいくかもしれません。ニュースで流れるかも』
 書かれていたのは小さな希望。
 友人なりの気休めかもしれません。けれど。
「うん。ゆずちゃんたちが頑張れば、きっと降りられるよ!」
 何の根拠もないけれど。
 大人顔負けの頭脳を持った大切な親友は、そんな彼女と並ぶほど優秀な仲間たちとともに居るのです。
 きっと大丈夫。三人は笑い合って、海の上の親友を想うのでした。


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サークル名:オービタルガーデン(URL
執筆者名:夕凪悠弥

一言アピール
既刊「走れ、ラブレター!」のある意味後日談。17歳になった3人+αの様子をお送りしました。
作中でメールの内容として語られているのは長編「神域のあけぼし」序盤を柚歩の視点から切り取ったものになります。
こんな感じでゆるーく宇宙遊泳MAPも主催しています。よろしくお願いします。

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