プリニウスの赤い天狼


「熔ける葉脈」
奇妙なシテの女が導く、現代の道成寺。

「giudecca」
軍人の男が、”都市”を支配する女男爵の住まう城(ビル)に招かれる。
そして、都市を脱走した少年は、甲冑の男に命を救われる。

この哲学的2編からなる、本。
ファンタジーや伝奇のジャンルでしょうが、「ダーク」の一文を添えるべきかと。

 これを、「陰陽座」の「道成寺蛇ノ獄」を聞きながら書いています。

「熔ける葉脈」
 最初のページで、「あ、道成寺だ」とワクワクし始めました。
 他の作品でも感じたのですが、雀ヶ森さんは引用が非常に的確な文とタイミングですね!
 シテなのに、軍帽? と女の奇妙な服装と、芝居口調に惑い(良い意味で)ながら読み始めると―。
 いるいる!
 こういう文系女子!
 オタクで、スポーツとかギャル系とか馬鹿にしてて、自分が賢い方だと思っていて、それでいて別に博学でも無いこういう女子!
 ……自分の高校生時代にブーメランのように返ってきそうです。
 全く脈が無い恋をして、あっさり振られて―からの幻想的な能舞台!
 蛇がのたうつ様がありありと浮かび、読経が響いてきました!
 
 さて、BGMを同じく陰陽座の「甲賀忍法帖」に変えます。歌詞の内容より、このスピード感のある曲調重視です。

「giudecca」
 原点を拝見した感動! 嗚呼、此処から雀ヶ森ワールドは始まったのだ!
 この現代日本とファンタジー世界が入り混じった設定、私は好きです。
 何なのでしょう、女男爵の奇妙な魅力は。
 不気味なのに、非常にエロティックな印象を受けました。
 哲学的内容を理解はできませんでしたが(愚かで申し訳ありません)、ゲーテのファウストを読んだ時と同じ読み方で楽しみました。理解せず、ただその世界を楽しむのです。
 この読み方は文章力のある作家様の作品でしかできないので、改めて雀ヶ森様の実力に慄きました。(宇宙の話とか聞くと、なんだか怖くなるタイプなのです)


発行:雀ヶ森めぐ
判型:A5 62P
頒布価格:500円
サイト:小説家になろう(雀ヶ森めぐさんのマイページ)
レビュワー:浮草堂美奈