「夜」を舞台にした合同誌。出会いの物語「カントコトロ」と別れの物語「夜の翅 月の絆」の短編二作を収録。
(サークルサイトより)
本好きにとって好みの本というものは、ぱっと見ただけでなんとなくわかるものですが、こちらの本は私にとって、まさしくそんな一冊でした。
事前にこれといったチェックもなくイベントへ足を運び、ふらふらと会場内を彷徨っていた折に見つけた同人誌です。表紙を見た瞬間から、一ページ目を開くまでもなく「これは絶対に面白い」と、直感に従って購入しました。結果的には大当たりだったので、あのときの自分を褒めてやりたい気持ちです。
桐原さくも著「カントコトロ」。どこかアイヌを彷彿させる世界での、少女の出会いの物語。しんしんと冷えた空気が伝わってきそうな繊細な文章に、吸い込まれるようにして読みました。大人になるための通過儀礼として、一族の儀式を踏襲する少女リムセが、己のつがいとなる樹を探す一夜の物語です。
端々に至るまで文章のすべてがとにかく美しく、それがまたいっそうこのお話の世界観を際立たせていました。色にこめられたそれぞれの意味や、思いが、語られずとも伝わってきて、ストーリー全体を幻想的に魅せているのだと思います。
東堂燦著「夜の翅 月の絆」。童話風の世界観の中に、醜い現実を臆面なくえがいた物語。背中に翅を持ってしまった人々の、苦しみと救済のお話です。深みのある文章でつづられる中で、登場人物たちの言葉がまるで刃のように鋭く、良い意味で所々ヒヤリとさせられました。
死や滅びを前にして、残された時間をどう生きるかという、とても重たく難しいテーマなのですが、主人公の気持ちがまっすぐに書かれているため、素直に受け入れることができました。最後に主人公が選んだ終わり方は、人に裏切られて世界に絶望し、人によって救済を得るという展開で、大変好みでした。
出会いの物語である「カントコトロ」と、別れの物語である「夜の翅 月の絆」ですが、個人的にはなぜか「カントコトロ」のほうが物悲しく、「夜の翅 月の絆」のほうが幸せな物語だったように思います。おそらく「カントコトロ」の主要キャラたちにとって、出会いは別れへのカウントダウンなのではないかというように感じたから、そのような感想を抱いたのかもしれません。こんなに綺麗な出会い方をしたふたりが、別れる姿を見たくない、と強く思いました。そうなると「夜の翅 月の絆」は、恵まれた終わりを迎えることのできた物語として、やはりとても幸せだったのでしょう。
最後になりますが、表紙、裏表紙ともに大変素晴らしいです。本というものは総合芸術なのだなと改めて実感させられました。
いずれにせよどちらの作品も、甲乙つけがたいほどレベルが高く、素敵な物語でした。冬の夜にひとりで静かに読むことをおすすめします。
発行:花鳥
判型:A5 34P
頒布価格:300円
サイト:花鳥
レビュワー:ひより