楽園の子供達 chapter phoenix


かつては優秀な生徒達が集まっていた魔法学園α・ミーミル学園。だが今、そこは数ヶ月前に起きたとある「事件」によって崩壊し、孤立していた。
崩壊後の学園で生き残りをかけて戦う子供達のお話。
(サークルサイトより)

表紙の美しさに惹かれて購入いたしました。二色刷りはロマンですね。
あと紙の手触りが、とてもよいです。
作者さんのブログを覗いてみたところ、装丁にこだわりのあるお方のようなので納得。装丁は本当に大切だと思います。本を手に取る判断材料の中でも、重要な一つであると思うので。

内容としては、あらすじの通り「ある事件により閉鎖、隔離されてしまった魔法学園。そこに取り残されてしまった生徒たちのサバイバル生活」。
全編を通して謎の種があちこちにばら撒かれていて、私のような閉鎖空間好きにはとても美味しいお話です。
全編を通して、地水火風の四属性を基本とした生徒たちの魔法の描写、また魔法の「組み立て方」、魔法同士の相性など、古参ゲーマーがにやっとする要素が多数盛り込まれております。
また、それらの本来「馴染みない」情報を、物語を通して当たり前のものとしてすんなり飲み込ませてくれる腕前は、ファンタジィ書きとして見習わせていただきたいものです。

火のグループ・フェニックスの「三番手」アレンを中心とした第I話、そして火のグループリーダー、シエラの視点による第II話の二本立て。
前者は学園内に存在する魔物とのバトル描写が中心になります。
このバトル描写がとても丁寧で、上手いのです。戦闘に参加する三人の戦い方の違いをきっちり見せた上で、そのコンビネーションの妙を描き出す手腕には感嘆しきりです。
その中で、時折織り交ぜられる「過去」から、アレンの抱いているものが見え隠れするわけですが……後者のシエラの話も通して読んだ感想として、フェニックスの人たちは表面的にはともかく、胸の内側に確かな熱いものを秘めた連中、という印象です。
力強くて、だからこそ、命短いような。炎というのは得てしてそういうものなのでしょうか。フェニックスの面々が、他のグループに比べて、あまりにも数が少ないように。

そして、すごく個人的な感想として、風の魔法使いノイスターがかわいいです。とてもかわいいです。
先輩たち二人と、強大な敵を前にして、折れるどころか奮起する一生懸命な女の子、っていいですよね!

シリーズということで、この本のみでは全ての謎は解き明かされないのですが、それがまた余計にこの世界への興味を深めてくれます。
他の「子供達」の物語も含め、世界が深まっていく過程が楽しみな一冊でした。


発行:秋水
判型:A5 68P 
頒布価格:300円
サイト:秋水

レビュワー:青波零也