双花&ばけのあわあわアワー!~不思議編~

『風の噂に聞いたんですけど…』何日目かの車中泊の夜、同乗者を寝かしつけて自分も目を閉じたら、突然知らない声が車内に響いた。驚いて振り向くと、後ろの荷台に積んでいた非常用ラジオがいつの間にか起動し、どこかの番組を流していた。ここは森の中。ラジオに限らず何の電波も届かないはずなのに。

☆☆☆

 風の噂に聞いたんですけど、今度テキレボっていうお祭りがあるそうですね。あちこちから本がやってきて集会を開くんですって!
「きゆっ」
 えっ違うんですか? だって、本が集まるイベントってここに書いてありますよ。そういう意味じゃない。
「きゆきゆ。きゆっきゆきゆ」
 いろんな人が作った本を取引する。時々まだ完成してない本まで売れてしまう。よくわからないですけどすごいですねー。ちょっと、冷たい目はやめてください。ばけさんも本当はよくわかってないのでは?
「きゆ」
 知ってる? 行ったことある? いいなー、私も行きたいです。今度連れてってください。あ、はい、タイトルコール行きます。

“双花&ばけの あわあわアワー!”

 お相手は私、双子の花と書いてシャンファ。そしてアシスタントのばけさんです。
「きゆ、きゆー!」
 はーい、よろしくお願いします。
 ところでやっぱりこの番組タイトルどうにかなりませんか。すっごく言いにくいです。確かに初回の放送で緊張して慌てて、つい(ピー)振り回しちゃって怒られましたけど。さすがにもうあれはやりませんから! もうあわあわしません!
「きゆー」
 続きを読んで? すみません。大事なところを飛ばしてました。
 この番組は、異世界事情はお任せください、人外派遣の【フェザーリング社】。あなたのあまーいお友達【ハニービーマート】の提供でお送りします。

 さて本日の甘々、じゃなかった、あわあわアワー。投稿テーマは「身の回りで起きた不思議な出来事」。さっそく皆さんからいただいたおたよりをご紹介していきます。
 最初はこちらのハガキから。ラジオネーム「ミステリー沼」さん。高校生のかただそうです。読んでいきますね。『こんばんは。』
「きゆっ」
『ちょうど不思議な出来事が最近あったので聞いてください。僕が通っている学校には、十年に一度、謎の怪人が出没する年があるという言い伝えがあります。そいつに出会った人は何か質問をされて、正直に答えなかったら襲われるそうです。正直僕は信じていませんでした。でもある日、クラスの……』
 えっと、クラスメートのお名前が書いてありますが、本名か仮名かわからないので一応伏せますね。
『……クラスの○○君から助けを求める電話が来ました。学校から帰る途中、暑い時期なのにわざわざ長袖のコートを着た人がいて、不審に思っていたらいきなり声をかけられた。よく見たら顔には仮面をつけていて、ますます怪しいので無視して通り過ぎるつもりだったのに、なぜか追いかけてきた。そんな話でした。電話しながら逃げているみたいで、早く来てくれって必死に言うから、近所のハニマで落ち合うことになりました。』
「きゆきゆ」
 ミステリー沼さん、会うことにしたんですね。お友達なら心配ですよね。
『でも出かけようとしたら親に呼ばれたり、道路の真ん中にトラックが止まってて通れなかったり、その日に限って邪魔なことが続いて。やっとハニマに着いたら○○君が出てきたところで、大丈夫かって聞いたら変な顔をされました。怪しい奴なんて知らないし、僕に電話した覚えもない。そういえばどうしてコンビニに寄ろうと思ったのかも思い出せないって言われました。』
 ……あ、あれ?
「きゆ?」
 えっと、一行あけて、続きが書いてあるんですが。
『こんな内容を書き込んだハガキがいつの間にか机の上に置いてありました。どう見ても僕の筆跡で、内容も僕なら面白がって書きそうなことです。でも僕にはそんな記憶が全然ないし、僕のクラスに○○君という人はいません。』
 これ、どういうことですか? ばけさんわかります?
「きゆー……」
 目をそらさないでくださーい! あ、ここでいったんお知らせです!

――ああ、この深夜に新作スイーツを宣伝することをどうかお許しください。
――ハニマの看板商品“ハニーレモンパイ”を超えるべく、社員が一丸となって作り上げた自信作、その名も“ハニーキャラメルアップルパイ”。焦がしキャラメルの妖艶な輝き。誘惑されるままにひとくちかじりつけば、サクサクのパイ生地からあふれ出す、禁断の甘い香り……
――黄色い看板、ミツバチ印の【ハニービーマート】でお待ちしております。

 ふー……確かに不思議と言えば不思議なお話でした。
「きゆ」
 気を取り直して次行きましょう。ラジオネーム「みなみ」さん、主婦のかたからいただきました。
『双花さん、ばけさん、こんばんは。最近の話ではなく、ずっと前のことになりますが、聞いてください。』
 最近の話じゃなくても大丈夫ですよ。そういえば最近っていつぐらいまでのこと言うんでしょう。
「きゆー!」
 また脱線しちゃいました、ごめんなさい。続き読みますね。
『中学二年の夏休みのとき、家の近くにある林を興味本位で探検してみたら、いつの間にか迷子になってしまいました。そんな私を助けてくれたのは、真っ赤な着物を着て、腰に二振りの刀を差したお侍さんでした。口は悪いけど親切な人で、一緒に林の入り口まで戻ったのですが、気づいたらその人は姿を消していました。
 その後、受験を控えた中三のお正月に初詣で地元の神社へ行って、お賽銭箱の奥を何気なくのぞいてみたら、見覚えのある刀が奉納されていました。そのときは気のせいだと思ったのですが、志望校に合格してお礼参りへ行ったときにもやっぱりあったので、思い切って神社の人に聞いて、刀を見せてもらいました。間違いなくあの人が持っていた刀でした。そこにあったのは一振りだけで、ずっと昔に納められた記録はあるけど、元の持ち主は不明とのことでした。
 彼が何者でどこから来たのか、私と別れてからどうなったのか、今もわかりません。いつ思い返しても不思議なことで、きっと一生忘れないと思います。』
 ……すごい。なんだか運命って感じがします。
「きゆきゆっ」
 夏休みってどこか魔力を感じますよね。もしかしたら次の夏休みにまた奇跡が起きちゃうかも。
「きゆ?」
 そこじゃない? だって、いろんな話があるじゃないですか。ちょっとした冒険っていうか。
 では次のおたより行きます。ラジオネーム「宝石堀り」さん。
『冷凍庫に入れていたアイスを同僚が勝手に食べました。名前を書けって怒られたけどしっかり油性ペンで書いてました。そういうのをうるさく言う割に名前を確認しないって不思議です。』
 なぜか争いになってしまうんですよね。冷蔵庫のプリンとか。
「きゆ……」
 ばけさんが思わず真顔になったところで、お知らせです。

――年齢の割にその道のプロ以上の知識を惜しげもなく使って大活躍と思ったら転生者だった! 正直このまま学校にいさせていいのかとお悩みの学長様!
――勇者召喚の大事な儀式に失敗して一般人を呼んでしまった! かわいそうだから元の世界に返してあげたいと心痛める優しい神官様!
――豊富な知識と世界間ネットワークで、魂の一方通行に帰り道を作ります。人外派遣と異世界コンサルの【フェザーリング社】にお任せください!

 いつものようにのんびりお届けしています、“双花&ばけのあわあわアワー”。今回は噛まずに言えましたよ!
「きゆ……」
 さてさて、続いてはメールですね。ラジオネーム「風の魔女」さん。
『今のわたしにとって不思議な出来事は、あなたがたの番組を聴いたことです。』
 えっ、そうなんですか?
「きゆ?」
 どう不思議なの、ですか。続きに書いてあるので読みます。
『わたしはある事件の記録を探す旅をしています。今日は夜になる前に人のいる集落に着けなかったので、街道の脇に車を止めて運転手に仮眠を取らせました。でも約束の時間になっても起きないし、他の車も全然通らないし、話し相手がいなくて退屈していました。そしたら車に積んでいたラジオが勝手に動いて、おふたりの声が聞こえてきました。投稿している人たちの話はよくわからなくて、違う世界の話を聞いているみたいだったけど、ちょっとだけ面白かったです。
 番組が終わるとラジオは勝手に切れました。運転手に内緒でいろいろ動かしてみたけどもう何も聞こえませんでした。ラジオなんて町の近くでしか聞けないのが普通で、こんなところまで電波が届くはずないから当たり前なのに。
 このメールも何日後に送信できるかわからなくて、そういえば送り先も聞きそびれたけど、とりあえず言いたいことを書くだけ書いて保存します。
 あのときはいい暇つぶしになりました。ありがとう。』
 ……ほえー。
「きゆー。」
 つまり、風の魔女さんと運転手さん、二人で長い旅をしていらっしゃると。それで一人がなかなか起きなくて、ひとりきり。さびしかったでしょうね。
「きゆ」
 よかった? そうですね。お腹を抱えて笑うまではいかなくても、少しくすっとしてもらえたなら、私たちは嬉しいです。投稿したリスナーさんも喜んでくださると思います。

 そろそろお時間が来たようですね。最後になりましたが次回の投稿テーマを発表します。ずばり「最近読んで面白かった本」! 宛先は(ザザーッ……)皆さんのおたよりをお待ちしています。
 ここまでのお相手は双花と、
「きゆー!」
 ばけさんでした。次回もお楽しみに。

☆☆☆

一方的な音声が途絶えた直後、ラジオの電源が勝手に切れた。今のは何だったのか。しかし最後に読み上げられたメールには心当たりがある。助手席で静かに寝息を立てている私の雇い主が、一週間ほど前、私に隠れてあのラジオをいじっていたことがあった。気になるがあえて聞かない方がいいかもしれない。

サークル情報

サークル名:化屋月華堂
執筆者名:Rista Falter
URL(Twitter):@Rista_Bakeya

一言アピール
化屋月華堂20周年を勝手に祝し、マスコット「ばけ」をはじめ、最新作から過去の遺物までいろんなネタをかき集めました。テキレボでは風の魔女と運転手の旅を追う「ストレイトロード」、冒頭と末尾のような140文字小説をまとめた「ルート140」、仮面の怪人が暗躍する現代ファンタジー「DROPOUT」などを頒布します。

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