拝啓、明智殿へ

　　拝啓、明智殿へ

　拝啓、十兵衛（光秀）へ。
　お元気にされていますか、前右府（信長）です。私はいま三途の川のほとりに居ます。どうして私がこんな所にいるのかは、御存じかと思います。本能寺が囲まれた時は、てっきり息子（信忠）かと思いましたが、貴方が謀反を起こしたと聞いて大変驚きました。
　私の何が気に入らなくて謀反を起こしたのか、よく考えてみましたが分かりませんでした。やはり金柑頭（ハゲ）と渾名で呼んだ事が気に入らなかったのでしょうか？　それとも、貴方の母上が人質になっているにも関わらず、敵城の城主を私が処刑したこと、まだ恨んでいるのですか？　確かあの後、貴方の母上は城兵に殺されてしまいましたね。でもあの件は、十兵衛の交渉が長引いた所為だと思いますよ。
　そう言えば徳川殿を接待する時も、貴方はしくじりましたね。流石に二回もボコボコにしたのは悪かったかなとは思いますが、徳川殿に腐った魚を出した貴方が絶対に悪いですよ。
　思えば十兵衛とは長い付き合いでしたね。伊勢長島の一向一揆を焼いた時も、比叡山焼き討ちの時も、貴方は最後まで嫌がっていましたけど、私が脅したら同僚（秀吉）が引くくらい鏖殺してましたよね。結局脅されないと動かないのは、十兵衛の良くないところだと思いますよ。
　ひょっとして最近領地取り上げた事が謀反のきっかけですか？　怒ってますか？　でも、これから侵略して取れた土地は領地にしていいと、私言いましたよね？　小さいことは気にしてはいけませんよ。
　貴方は有能なので、ついつい無茶な仕事を押し付けて、よく叱責してしまいましたけど、主君の無茶振りに応えるのが配下の仕事ですから、特に気にしてないですよね？
　そう言えば十兵衛は、昔から家臣団にあまり馴染んでいませんでしたね。美濃出身で、私達が使う尾張弁が分からなくて、軍議で大層苦労されていた事、憶えています。
　あの頃は私と将軍（足利義昭）の無茶振りに板挟みになって、いつも胃を痛めていましたね。最終的に貴方が心血注いだ将軍との関係は、私が粉々に壊してしまいました。貴方の仕事を台無しにする気はなかったので、一応悪いな～とは思っていますよ。でもアイツ（将軍）が言うこと聴かないのが悪いんです。
　仕事と言えば、四国（長宗我部）に攻め込むと私が言ったら、貴方は頭を抱えていましたね。自分がせっかく仲介になって同盟を結んだのに、また台無しにされたとか思っていませんか？　それくらいのことでは、流石に謀反なんか起こしませんよね？
　十兵衛以前にも、私はこれまでに何度も謀反にあってきました、具体的に名前を挙げると、弟の信勝×２、浅井、荒木、波多野、松永×２、別所、等々・・・自分でも何故これほどまでに裏切られやすいのか不思議でなりません。私の人間性のどこかに問題があるのでしょうか？
　十兵衛に裏切られた理由もよくわからないので、こちらにおいでになった際は是非謀反の理由を教えて戴きたいと存じます。
　出来れば早めにおいでになって下さい。
　今、地獄統一へ向けて配下を募っているところなので。
　天正十年　残暑の頃　　　織田前右府信長　　敬具

　拝啓、第六天魔王、織田前右府信長様へ
　
　お手紙拝見しました。
　全部です。
　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　明智十兵衛光秀
　　　　　　　　　　　　　　　敬具