泡盛さん・属性・お祭り男

「この国の祭りって神様を喜ばせるためにあったんですよ」
少年がそう言った。手元には様々な文献。白薔薇亭のいつもの居間。
「神様を喜ばせる、ねえ」
「僕達にはそんな考えなかったでしょう」
「そう言えば…」
「もてなして、どうするって…」
「見ますか」
動画を映し出す。
「これ」
「三社祭です。それからこっちは神田明神のお祭。この祭神は平将門…」
「どうしたの」
「僕、この国生まれていたら、僕のためのお祭りがあったと思います」
「は」
「平将門は戦に敗れて斬首された人です。彼の怨念を恐れた人々が彼を神にし、彼をもてなし、喜ばせるためにこのお祭りは行われているんです」
「暴れている感じが…するけど」
「猛々しい武将だったんですから、思い切り暴れて楽しんでもらうんですよ」
「なるほど…」
「この国は火山列島です」
「リッチー君」
「火山の神様も、もてなすんですよ、あまり大噴火しないでくださいねって」
「そう」
「女神だそうですよ、火山の神様って」
「意味深だね」
「神様をもてなし、喜ばせてあまり自然災害起こさないでくださいってお祈りをするのが、この国のお祭りなんです」
「神様を喜ばせるような事…しているかな、私たちは」
少年は目を見開いていた。
「多分、してないと思います。あーなんてバカなんだろうって嘆かせてばかりいるんじゃないかな」
「私もそう思うよ」
トマスがやってきた。
「なんですか、それは」
「フィリッパ様と何のお話していたんですか」
少年がトマスに聞いていた。
「たいしたことではないです、これは」
「三社祭と神田祭は東京の、江戸の頃から続いているお祭りです、それの動画の一覧」
「この、輿は」
「神様が乗る輿で…えーっとその」
「荒々しく担ぎますね」
「荒ぶる神ですから」
「え」
「でね、こちらが京都の祇園祭」
「この少年は」
「長刀鉾の神のお使いとして祭りに参加する子で…」
「またレポートですか」
「はい」
「長刀鉾は女人禁制で、この稚児の世話は祭りの間は母親と言えど世話をすることは出来ないそうです」
「三世陛下、調べていて楽しいですか」
「面白いですよ、世の中には僕達の価値観では計り知れないことばかりあって」
「トマス」
総裁が呼びかけた。
「殿下」
「この国の人達はね、神様を喜ばせるためにお祭りをするそうだよ」
「面白い考え方ですね」
「自然災害の多い先祖を敬う環境に生きていれば当然のことかと…それから…宣教師の教えにうなずかなかったと」
少年が言い出していた。
「何故です」
「神を信じなければ地獄に行くと言ったら、信じなかった先祖は地獄にいるのかと聞いてきたそうです」
「それは当然だな」
「それで、彼らは親や先祖が地獄にいるのなら、自分だけ抜け駆けは出来ないから、神を信じないことにすると返事して受け入れなかったそうです」
「ぬけがけ、とくるか」
「だから、自分も地獄でいい、そうですよ」
「そうか、そういう考え方もあるか…」
「想像もつきませんでしたけれどね…」
レポートを書き上げて、少年は送信のボタンを押した。
「大学の、論文か」
「東洋の宗教は民族ごとに違っていたりして、結構厄介なんです」
「これはなんですか」
「これはヒマラヤの…ものです。カイラーサという山のまわりを五体投地してまわる巡礼ですね」
「修道士もやってたものに似てますね」
「お水取りのはもっと激しいけれど、あれはお祭りじゃなくて、法要で、弔いの儀式だから…」
「ん」
「修二会はお祭りじゃないんですよ、見たことありますでしょ、殿下」
「そうだったな…、あ、母上」
フィリッパが入ってきていた。
「またこっちに来ていたの、エドワード」
「有給休暇消化ですよ」
総裁はそう言った。
「…それはいただけないわね、働きすぎておかしくなって私のところに来るつもりなの、二人共」
「そ、それはないです、したくないですっ」
少年が苦笑し、トマスに囁いた。
「殿下も母君には弱いんですね」
「弱いというか…」
「ところで、この間、殿下が飛び入り参加しちゃったお祭りの動画届いているんですけど、どうしますか」
「え」
「青森の…」
「まさか」
「振る舞い酒で出来上がっちゃったらしくて…姉様が被害にあったところに謝罪しまくったんですけど、面白いから来年も来てくれって…」
「何したんです、あのお方は」
「だから、見ますか、トマス殿」
「ええ、一応…」

「…ここまで、しましたか」
「はい」
「なかなか、ですね」
「はい」
後ろでフィリッパが顔を引きつらせている。
「王妃陛下」
「何かしら」
「殿下を叱ることはないと思われますが」
「そうかしら、で、あの子、どこまで記憶あるのかしらね」
「…ほとんどないみたいですよ」
「あら、やだ」
「ところでこのお祭り男気質ってどこからなんです、王妃陛下」
「あの人だわ」
「え」
「私の夫からに決まってるでしょ」
「王妃陛下もエドワード三世陛下も僕達のご先祖なんですよね」
「そうよ」
「…納得しちゃった」
「どうかしたの」
「ミドラムにいた頃、村祭りに飛び入り参加してはフランシーたちに怒られたんですよね、僕」
「あら」
「リュート持ち出して歌歌って、村娘たちとダンスしたりして…いつもならおとなしいのにどういうことだっていつも言われちゃって」
「不思議だったのかしら」
「ええ、お祭りって好きで。何故なのかずっとわからなかったんです」
「あら、やだ…でも、それにしても…うちの子は」
「このねぶたを引き回す手伝いをしたことまでは覚えてらっしゃいますが…」
「ん」
「太鼓叩いて、笛吹いて、鉦打ち鳴らしたのは、覚えてらっしゃらない様子です」
「このダンスは、どうなのかしら」
それを聞いて総裁が突然叫んだ。
「それは記憶はあるっ。あとでへばって筋肉痛でのたうち回ったからなっ」
総裁は真っ赤になっていた。
「この衣装」
跳人の衣装を示していた。
「何だ」
「女装だってご存知でしたか」
「は」
「腰巻きも浴衣も帯も男物の色じゃないですよ、タスキも」
「なんで、また」
「祭りのときは仮装するというのも習慣なんですよ」
「君はよく調べるね」
溜息をつく。
「体力あったら参加したいです、この祭り」
「ああ、そう…」
「トマス殿は」
「私は遠慮したいですね」
「ホントですか」
「解ってますよ、エイサーとかいう踊り、レイモン博士に教わったあと、酔っ払って踊りまくった私の動画、記録なさったんでしょ、三世陛下」
「あら、やだ」
フィリッパがそう言う。
「小ぶりの太鼓叩いて踊りまくったそうです。記憶にありませんが」
トマスが少し、憮然として告げた。少年がその動画を映し出す。
「…あらあら」
「それにしても…お祭り男気質って伝染するんですかあ」
「それは…」
「ありえるわね。なにせあの人の宮廷の人達だもの」
フィリッパが断言する。エイサーの太鼓を少年が持ち上げていた。
「貸して」
「はい、どうぞ」
総裁が小太鼓を手にした。ドンと鳴らす。
「エイサーは先祖や亡くなった人達を慰める慰霊のための踊りです。男子限定」
「ん」
「沖縄の神事は大方は男子禁止」
「何故、そうなるの」
「命を生み出すものこそ尊いからです、王妃陛下、僕はそう思います」
「命…」
「命こそ宝って言うところなんですよ。殿下お気に入りの泡盛はその国の名物のお酒ですけどね」
「飲み過ぎは駄目よ、エドワード」
「は、はいっっっ」
青薔薇の染付の瓶。最高級の泡盛。その瓶を揺らしながら、少年が言い出す。
「殿下、今年は何処のお祭りに行きますか、スペインの牛追いとか、ブラジルのカーニバルとか」
「母上の前で言わないでくれ」
「王妃陛下にも楽しんでいただけるように計画いたしますから」
「あら、素敵」
どーなることやら。
「振る舞い酒に気をつければ、大丈夫かと…」
「そこは自信がない…」
「私がいても、なの、エドワード」
「残念ながら…」
「まあ、それでも楽しそうね…」
いや、楽しまないでください、母上。とは総裁殿下は口が裂けても言えないのであった。


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サークル名:みずひきはえいとのっと(URL
執筆者名:つんた

一言アピール
歴史人物を使ったファンタジーを扱ってます

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