牡丹の戒め

 うららかな春の日、薛聡は鉢植えの牡丹を抱えて王の執務室を訪ねました。
「聡智(薛聡の字)か」
 突然の訪問にも関わらず、王は嬉しそうに彼を迎えました。
「我が家で育てた牡丹が花を咲かせましたのでお持ちしました」
 こう言いながら薛聡は鉢を王に渡しました。部屋に居たのは王一人だったので自ら受け取り机の上に置きました。
「ちょうど一休みしようと思っていたところだ。いつものように何か面白い話でもしてくれぬかのう」
 王は薛聡に席を勧めながら言いました。
「承知いたしました」
 薛聡は快く応じました。
「今日は少し趣向を変えてお伽話でもいたしましょうか」
 王が興味深そうな表情で承諾したので、彼はさっそく話を始めました。

 その昔、香丘に花の王様がいらっしゃいました。花王は青い帳におおわれた中で過ごし、春三月になると美しい花を咲かせていました。その花があまりに見事なので遠い近いを問わず、一目見ようと多くの草花がやってきました。その中には、ぜひ王に仕えたいと申し出る者もいました。
 まず王の前に進み出たのは薔薇嬢でした。艶やかな容姿で舞姫のようなしぐさで挨拶した彼女は甘く囁くような声で言いました。
「私は白雪のような浜辺で鏡のような海を眺めながら過ごしています。春雨で沐浴し、爽やかな風にあたりながら身を清めています」
 王は思わず彼女に見とれてしまいました。
 次に進み出たのは、粗末な衣服を身に付け、杖をつきながら歩いてきた白髪の老人でした。
「私は白頭翁と申します。郊外に住み、広い平原と聳える山々を眺めながら暮らしています」
 しわがれ声で老人は言いました。
 二人を下がらせた後、側近が小声で王に尋ねました。
「どちらを採りましょうか?」
「決まっておるではないか」
 王は薔薇嬢を側に置くことに決めていました。
 これを知った白頭翁は、
「残念なことでございます。せっかく噂を耳にしてわざわざ参りましたのに、王様はこの程度の方だったのですね。王様の周りには美味い食事で御腹を満たしてくれる臣下はいるようですが、健康のために敢えて苦い薬を勧める者はいないようです。このような王に仕えるのは、こちらから願い下げです」
と言い捨ててその場を去ろうとしました。
「待て!」
 王は老人を引き止めました。
「わしが愚かだった。汝のような者こそ、わしには必要なのだ。どうか、わしの側にいていろいろ教示してくれぬか」
 老人は踵を返すと王の前に進み出て平伏しました。
「誠心誠意、お仕えいたします」

 話し終えた薛聡は、王が勧めるままに、その間に運ばれていた白湯が入った碗を手に取り喉を潤しました。
「汝の話はいつも興味深いが、今日のものは特に意義深かった」
 王は手にしていた碗を置いて感想を述べました。
「恐縮至極でございます」
 やはり主上は賢明な方だ、薛聡は改めて思うのでした。


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サークル名:鶏林書笈(URL
執筆者名:高麗楼

一言アピール
元の物語「花王戒」は韓国では有名な史話で韓国の擬人化小説の始祖のような作品です。作者の薛聡は新羅時代の人物で名僧・元暁の子息です。神文王に仕え、学識豊かな人物でした。

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