2020年12月5日 / 最終更新日時 : 2020年12月3日 anthology_ex2 EX2 Webアンソロ「手紙」 波が来たりて 私の故郷は坂の多い海辺の街だった。 夏になると海水浴場に観光客が押し寄せて来て、海の家を開いていた母方の叔父さんは、夏になると上機嫌になり、毎年私にプレゼントをくれた。最後にもらったのは、白地に赤い水玉模様のワンピース […]
2020年10月6日 / 最終更新日時 : 2020年10月5日 anthology_ex2 EX2 Webアンソロ「手紙」 ダイレクトメールをまとめて燃えるゴミに出す 野村秋子のむらときことは、先日まで同棲していた女性の名前だった。 大学時代から六年間。長く連れ添っていた。別れるときにはお互いに泣きも騒ぎもしなかった。合鍵を僕に渡した彼女が玄関のドアノブを捻り外に出るまで、よく晴れた […]
2019年9月9日 / 最終更新日時 : 2019年9月9日 straycat 第9回Webアンソロ「imagine」 ただ話すだけの夢 灰白色の大地。 「なあ、ここはどこなんだ」 わからない。でも、夢の中だと思う。「夢? それはどうして」 俺の寝入りは早いんだ。スマホのアラームをセットして、頭から布団をかぶる。すぐに眠れるから、こんな見知らぬ場所に行く […]
2019年2月7日 / 最終更新日時 : 2019年2月6日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 鉄花 南部戦闘区域の植物園には掘り出し物が多いと、ゴミ回収業者の間では前々から噂されていた。実際に足を運んでみると、崩れ落ちた建物と、抑制を失って繁茂する木々の合間に、ロボット兵士の残骸が何体も寝転んでいた。 「このあたりは […]
2019年2月5日 / 最終更新日時 : 2019年2月5日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 サン 白い砂浜の波打ち際に、女の子が横たわっていた。波にのまれたらすぐに流れてしまいそうな、小柄な女の子だった。島で暮らす老体の男は、死体が流れ着いたとまず思った。満ち潮へ向けて迫り来る波に、その小さな身体をそっと流そうとし […]
2018年5月7日 / 最終更新日時 : 2018年5月7日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 九〇パーセントの水 ○×小学校三年二組の教室は窓が西に面している。黒板や教壇は南側に、ランドセルや道具袋をしまう棚は北側に設置あった。その棚の天板に、七月のある朝突然水槽が置かれた。 その水槽は天板の幅いっぱいの奥行きがある長方形であり […]
2016年9月5日 / 最終更新日時 : 2016年9月4日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 朱の記憶 理由はもう思い出せないが、そのとき僕は泣いていた。泥で汚れた掌で瞼を何度も擦っていた。涙は絶えず、嗚咽が漏れて喋ることもできなかった。まだ僕が幼かった頃の話だ。 落ち着いて一息つけるようになって、目を開いたら知らない […]