2020年11月5日 / 最終更新日時 : 2020年11月3日 anthology_ex2 EX2 Webアンソロ「手紙」 箋 ──うつくしい楼閣を築けるものは、それが砂のように崩れ果てるのを誰よりも恐れる。 「これは……」 定年退職の日、使い込んだ机の奥からひょっこり現れた一筆箋。それを手に取り、萩谷は深く、腹の底から溜息をついていた。四隅は […]
2020年10月23日 / 最終更新日時 : 2020年10月22日 anthology_ex2 EX2 Webアンソロ「手紙」 文箱さま 「ほんとにこんなおまじない、効くのかなあ……」 首をかしげながら、香緒利は文芸部の部室の隅にひとつだけ残されたロッカーの前でたたずんでいた。すくすく背を伸ばす小学六年生の妹を脅威に感じている小柄な体格とはうらはらに、初見 […]
2019年8月13日 / 最終更新日時 : 2019年8月13日 straycat 第9回Webアンソロ「imagine」 ハウス・アングラリスにて 渋い赤茶の煉瓦造りの屋敷には、しっとりと落ち着いた深緑の蔦が絡まっている。百年以上もの長きに渡り、向学心を静かに燃やす子弟を受け入れてきた中等教育機関の寮を前に──このハウス・アングラリスが今日から僕の居場所、とジュリ […]
2019年8月9日 / 最終更新日時 : 2019年8月8日 straycat 第9回Webアンソロ「imagine」 雨裡の路地に花の咲く ──書けない。 力の抜けた指から筆がはたりと、真っ白な紙に落ちていく。投げ出された墨色の飛沫がじわじわと広がっていくのを、ただぼんやりと私は眺めていた。 硝子窓の向こうでは、黴雨が幾日も続いている。トタンを穿つがごとき […]
2019年1月12日 / 最終更新日時 : 2019年1月11日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 廃園のマグノリア 冬の名残に冴えていた青が少しずつ鈍くなっていく空を背景に咲く、淡い白のマグノリア。流れる雲よりずっとやさしいその色は、いっせいに蘭燈に光を灯したように、エリクの青色の瞳に映った。 「うわ、これはみごとだな……」 暦の […]
2018年5月13日 / 最終更新日時 : 2018年5月12日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 海景 「おーっ、この景色を見ると、帰ってきたって実感湧くなあっ! ……メルっ!」 桟橋をドカドカ踏みならす音に、ああ、ヤツがまた来たか──と、メルの口から溜息が零れる。それに連れて小柄な彼女の足下の板越しに、海までも所在なさ […]