2019年1月9日 / 最終更新日時 : 2019年1月8日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 本気と本息 舞台課の内野うちやは頬を引き攣らせた。 稽古場に点在する仮設道具、小道具が並ぶ長机、衣裳が掛かったステンダー。中央では役者が軽く踊り、正面には演出家に音響・照明プランナー、振付師に殺陣師が座る長机、その背後にオーケス […]
2019年1月9日 / 最終更新日時 : 2019年1月8日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 国王と不吉の花 「どうしよう、トーン兄貴……おれ、死ぬのかも」 どよんと生気のない顔で訴えてきた末の弟に、俺は一瞬かける言葉を失った。 秋も深まる季節の、心地よい昼下がり。 末の弟――宮廷庭師であるシドが整えた美しい庭を東屋から眺 […]
2019年1月8日 / 最終更新日時 : 2019年1月7日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 墓標のない友へ 花言葉には縁がない。 手ぶらというのも恰好がつかないだろうと、いつもそのあたりで手に入る見映えの良い花を適当に選んで持っていく。初夏というにはまだ早い季節に花はあまり多くなかったが、大きな花を頂上に、茎が一本力強くす […]
2019年1月8日 / 最終更新日時 : 2019年1月7日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 紅茶店アラウネの秘密 紅茶店「アラウネ」は表参道ヒルズの裏小道を通った先にひっそりと建っていた。近隣大学の生徒たちが年中行き交い、小道の入り口を遮るせいで、滅多に客は訪れないらしい。知る人ぞ知る名店、という訳では無いが、今日の私はこのお店に […]
2019年1月8日 / 最終更新日時 : 2019年1月7日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 おにおとめ 女は寒いときにそうするように、胸の前で腕を交差させ、自らをかき抱いた。袖の布が千切れそうなほど指を喰い込ませ、小刻みに震えてさえいた。やがて椅子に座っていられなくなって、カーペットに倒れ込んだ。半身を打った衝撃のえずき […]
2019年1月7日 / 最終更新日時 : 2019年1月7日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 日向のマリアージュ 澄み切った空の下、一面に広がる青い花畑。それはこの世のものとは思えぬ美しさだった。ざわりと吹く風に一斉に揺らされた花は、まるで音楽でも奏でているのではないかと錯覚してしまう。 「どうだい、アサンドロ。綺麗だろう」 隣 […]
2019年1月7日 / 最終更新日時 : 2019年1月7日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 夜の子 砂漠の大地に花など咲くわけがない。雨は降らず、生きとし生けるものが耐え忍ぶ不毛の大地。誰しもそう先入観を持つに違いない、ましてや花畑などと。この地には一つ伝説がある。大雨が降った年、美しい花畑が現れる。 しかし、その […]
2019年1月7日 / 最終更新日時 : 2019年1月6日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 異形の花と旅人の物語 アナトリアやパミール高原に自生していたその花に、最初に魅せられたのは、トルコ人だったのかもしれない。 オスマン帝国の皇帝たちは庭をその花で埋め尽くし、細密画の装飾に、陶器を飾る模様に使った。 十六世紀、スレイマン一 […]
2019年1月6日 / 最終更新日時 : 2019年1月5日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 花 カンタベリーの墓標を見る。小さな花束が添えられていた。野草の花だった。 「誰が…」 貧相なコップに活けられた花は小さく、園芸種とは違って華やかさはなかった。それを見つめる。身なりのあまり良くない青年がその界隈を熱心に掃除 […]
2019年1月6日 / 最終更新日時 : 2019年1月5日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 剣の花束 1. 退社時刻が近づいていた。 大きな花束をぼんやり眺める。 春らしい、うすももいろのカーネーション。 会社をやめた娘が「お世話になりました」と持ってきたのだ。 MJBの空缶に水をはり、むぞうさに投げ入れた。 […]