2020年11月2日 / 最終更新日時 : 2020年10月31日 anthology_ex2 EX2 Webアンソロ「手紙」 アサーラ・シフェンステス嬢への手紙 親愛なるアサーラへ この頃、夏の気配を感じるようになったよ。モレノはまだ春の名残の中、光る丘ではますます花が咲き誇っていることだろうね。ベドゥールナへ来てからもう三年。春は首都で過ごすから、モレノの春が懐かしいよ。 で […]
2019年9月6日 / 最終更新日時 : 2019年9月5日 straycat 第9回Webアンソロ「imagine」 転職するなら 通勤時間の駅は混雑していた。最下層と中下層を繋ぐ駅なので、なおさら混んでいる。 中下層から最下層に向かう者が多いが、その逆も少なくない。ゲートを通り抜ける人々は、時間に遅れまいと誰もが急いでいる。一人が通るたび、長方形 […]
2019年1月27日 / 最終更新日時 : 2019年1月27日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 この花がある場所 最寄り駅を出発した時には空いていた車内は、座席がすべて埋まり、立っている乗客も多くなっていた。 左隣に座る人にぶつからないよう、蒼乃(あおの)は花束を抱え直す。 白とピンク、水色、淡い紫。花は一つ一つが小さく、茎は […]
2018年6月7日 / 最終更新日時 : 2018年6月6日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 いつかまた君と、ここで 見上げれば青い空。視線を下げると水平線が横に長く伸びている。海は空よりも青い。 さらに視線を下げると、海岸線が見えた。白い砂浜ではなく、洗濯板のような岩が広がっている。 「『鬼の洗濯板』と呼ばれてたらしいよ」 篤志 […]
2018年6月4日 / 最終更新日時 : 2018年6月4日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 汀にて 海の中は普段とはまったくちがう様相で渦巻いていた。 物心付く前から海で泳いでいた辰三たつみだが、荒れ狂う海に飲まれたことはない。 もがいても、いったいどこに海面があるのかさえ分からない。海水で目がしみて、すぐに息が […]
2017年11月9日 / 最終更新日時 : 2020年8月21日 Review Review サボテンの子どもたち 【新刊】寺島家の三きょうだいを中心に繰り広げられる、何気ない日常を綴った4編の短編連作集です。 必勝の条件 わたしはものをよく落とす――そそっかしい大学一年生の高橋晶は、ひょんなことから一年前の出来事を思い出す。 サボ […]
2017年8月15日 / 最終更新日時 : 2017年8月15日 straycat 第6回Webアンソロ「祭」 祭りの外 いつ来てもこの通りは人が多い。多くの商店が通りの両側に軒を連ねているせいで、普段から多くの人が行き交っているが、今はことさら多かった。太陽がまだ空の高い位置にあるというのに、正体をなくしている酔客の姿が目に付く。居酒屋 […]
2017年1月10日 / 最終更新日時 : 2017年1月9日 straycat 第5回Webアンソロ「嘘」 街のうつろにこだまする おいでよ。こちらへ、おいでよ。 ここは居心地がいいよ。身を切る風もなく、暖かい。 苦しいことは何もない。 悲しいことも何もない。 やらなければならないことも、いっさいない。望んでも手に入らなかったものが、すべて […]
2016年9月5日 / 最終更新日時 : 2016年9月4日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 和平の証の涙曇り クロドが知らせを受けたのは、歴史学の講義が終わった後だった。家庭教師と入れ替わりに執事が書斎を訪れ、耳打ちした。 「――幸い、ご本人も教師も怪我はされませんでしたが、部屋はめちゃくちゃです」 いつも表情を崩さない執事 […]