2018年4月21日 / 最終更新日時 : 2018年4月19日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 りゅうぐうの手 その妓楼は、霧深き山奥にあってなお、誰からともなく竜宮りゅうぐうと呼び習わされている。 妙齢の女主人が『乙おと』、遣手やりてと女衒ぜげんを兼ねる老婆が『亀かめ』という名から来たものか、廓くるわの名にあやかって二人がそ […]
2018年4月20日 / 最終更新日時 : 2018年4月19日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 海の歌声 海の音が聞こえる。それは昔から続いて今もなお響き続ける。僕らの街は海の街だ。産まれる前から僕らの中には海があり、産まれた後も海に囲まれ成長していった。早川和樹はやかわ かずきと泉水千花せんすい ちかは海の子供だった。僕 […]
2018年4月20日 / 最終更新日時 : 2018年4月19日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 少年と海と姫 ザザッと波が打ち寄せては消える。日差しがさんさんと照らす、波打ち際の散歩道。小さな少年の人影以外はない。 海で泳ぐには季節外れという訳ではないが、ここは遊泳禁止区域なのだ。そのため、彼以外の人の姿がない。時間が悪いの […]
2018年4月20日 / 最終更新日時 : 2018年4月19日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 まなうらの、あお 「海を見た事が無いの」 旅の途中のある晩、共に火の番をしていた時、赤い炎に金髪を照らし出されながら少女がぽつりと洩らした言葉に、ミサクはさしたる驚きも覚えぬまま、「そうか」と淡白に返した。 それもそのはずで、彼女は物 […]
2018年4月19日 / 最終更新日時 : 2018年4月18日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 最大のミニマム 人類が地球に住んでいた頃、少なくとも呼吸することは無料でできた。大昔の話だ。今は水を飲むことや灯りを点けることはもちろん、酸素呼吸――生きるという前提にさえ、何らかのコストがかかるようになってしまった。 カノープス・ […]
2018年4月19日 / 最終更新日時 : 2018年4月18日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 人魚姫 午前零時。恵美は家に入るや否や、ベッドに体を投げ出した。 「つっかれたあ……」 放られたバッグは、床に広がる物たちの海に沈んだ。ベッドの上以外、足の踏み場もない部屋の惨状を恵美は横目で見やる。 「いい加減、片づけなき […]
2018年4月19日 / 最終更新日時 : 2018年4月18日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 海の思い出 海は嫌いだ。 子犬の頃は、真夏のもくもくした雲の下、ホースの水をかけてもらうのが好きだった。小さなビニールプールは独特のにおいで、ためられた水は表面がきらきらと光っていた。 海は嫌いだ。由良が小学生の頃、梓を連れて […]
2018年4月18日 / 最終更新日時 : 2018年4月17日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 アレクとルビーの研究旅行 「ねえ、お散歩行こう?」 「待ってアレク、あとちょっと」 現地調査を邪魔しない、という条件でアレク王子も同伴させたけれど、ボクが作業をしているとしっかりちょっかいをかけてくる。悪気がないのは百も承知だし、十四歳なんて遊 […]
2018年4月18日 / 最終更新日時 : 2018年4月18日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 浜百合の道行き 俺は今、仙人峠を越えている。座敷童と一緒に。 「ね、紘ヒロ、『けいじどうしゃ』というのはずいぶん早いんだ?」 煽ってくる後続車を振り返りながら、幼い声が無邪気に言った。これは無垢を装った皮肉だと、俺は知っている。いく […]
2018年4月18日 / 最終更新日時 : 2018年4月17日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 はじまりの魔女たち 完成したばかりの等身大のわら人形を、床に描かれた方陣の上に配置する。 テスさまの研究はよくわからないが、わたしはいわれたとおり、この小屋の二二体の人形を、常に新しいものと取り替えている。 馬の尾の髪や、ぶどうの皮の […]