2018年5月30日 / 最終更新日時 : 2018年5月28日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 海を探しに 海がいなくなった。 わたしは「ぐすんぐすん」とすすり上げる弟をママチャリの荷台に乗せて海を探しに海に出かけた。 ややこしい言い方だが、海とは我が家の飼い猫だ。一五歳になる。人間の年齢で言えばかなりのおばあちゃんだ。 […]
2018年5月29日 / 最終更新日時 : 2018年5月28日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 緋の縅(ひのおどし) 緋の縅 ―― 湛む 拾遺 ―― からみつく蔓の狂おしい重奏が 熱帯林の錯覚を誘う。 緑に湛んだ客船の白壁は眺めるうちに ぼぅと光って滲みだした。 泥と汗でへばりつく軍手を脱ぎ呼吸を整え 手のひらのすべてでその肌に触れる。 […]
2018年5月29日 / 最終更新日時 : 2018年5月28日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 その海、ほろ苦ラムネ味 ゴクリ、とカフェオレを飲み干す信之。彼の喉仏が上下するのを、真午まひるはぼんやりと見ていた。 夏休み前の教室。 購買で焼きそばパンとカフェオレを買って戻ってきた彼は、どかっと座って、大口開けてそれを食べはじめたのだ […]
2018年5月29日 / 最終更新日時 : 2018年5月28日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 海を渡った女 浜辺を年配の男女二人が歩いています。 「本当に望みは無いのか?」 士大夫姿の男性が問いかけると 「当たり前のことしたまでです。島民が飢えから逃れることが出来たのですから、これ以上何を願いましょう」 と女性はきっぱりとし […]
2018年5月29日 / 最終更新日時 : 2018年5月28日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 真里子 少し離れた所に車を止めて、坂道を登った。 砂利道は歩きにくかった。少し前を歩く真里子も踵の低い靴なのに歩きにくそうに時々よろけていたけど、決して手は貸してやらなかった。言葉ひとつ掛けてやるつもりもなかった。 27年間、私 […]
2018年5月28日 / 最終更新日時 : 2018年5月29日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 樹海で一番怖いのは ミディアミルドに於いて、森林の類たぐいが“樹海”と呼ばれるには、三つの条件がある。 ひとつは、少なくとも森とは呼べるだけの面積を持つ樹木の群落地帯であること。 もうひとつは、その群落一帯で“非ナブオーヴァ化”――多 […]
2018年5月28日 / 最終更新日時 : 2018年5月26日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 伝えなかった未来の約束 世界の果てに誰もたどり着けない宝島がある。そんな夢物語が、船乗りたちの間で言い伝えられていた。 宝島なんてあるわけないと言う者もいれば、島にたどり着いて宝を独り占めした人間があとから噂を流したに違いないと言う者もいる […]
2018年5月28日 / 最終更新日時 : 2018年5月26日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 夜の海 夜が水嵩を増していく。足先をちゃぷちゃぷと舐めていた汀は、やがてくるぶしを包み込んで、ゆるゆると甲を撫でた。わたしは恐怖を覚えて逃げようとしたけれど、夜は足首を鎖す枷のようにわたしの足を絡め取り、掬った。夜は深度を増し […]
2018年5月28日 / 最終更新日時 : 2018年5月26日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 県民の日 波の音をベースに懐かしい歌を口ずさみながら、防波堤を歩く。忘れてしまった英語の歌詞を適当にごまかしたら、メロディもわからなくなった。 謎の虫を踏まないようにして、大きくひらけた海に向かって仁王立ちする。 白波の打つ […]
2018年5月27日 / 最終更新日時 : 2018年5月27日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 浜の名前 ―――宮城県名取市閖上ゆりあげ。 2011年3月11日。 あの日、この地名の読み方を知った人はどのぐらいいるのだろうか。 私に近くて遠い海の名前を。 宮城県名取市。 県内の人であれば、こう言うだろう。 『仙台市の南隣 […]