2018年5月27日 / 最終更新日時 : 2018年5月26日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 平日、春の海 自宅から最寄り駅の改札を入って、先頭車両の方へホームを小走りに進む。端に置いてあるベンチに座っていた彼女に声をかけた。 「お待たせ、映子」 「あ、桃子。私も今来たところ」 読んでいた本を閉じ、映子は私に微笑みかけた。 […]
2018年5月27日 / 最終更新日時 : 2018年5月26日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 電車が海に着く 机に突っ伏したまま遠くから窓越しに届く蝉の声を聞いて、またこの夢かと思う。 知っている。顔をあげても高校時代のように辺りに同級生が散らばり、思い思いの友人と語らっている訳ではない。無人の教室だ。 しかし放課後ではな […]
2018年5月26日 / 最終更新日時 : 2018年5月26日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 その男、名探偵につき~犯人の場合 祖母の一周忌は、離島の別荘で一週間かけて行われる。そんな条件であっても、呼び出された全員が別荘に揃った。 「ここに来ることが遺産相続の条件なんて、ばぁさんの考えてることはわかんねぇなぁ」 祖母は遺産相続の条件を、一周 […]
2018年5月26日 / 最終更新日時 : 2018年5月25日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 かなしからずやそらのあお 海にうかぶしろのなかにわたしは漂っている。 波をしろく搔きわけながらすすむ船は浪とおなじぐらいにしろく、おおきく、しろのように堅ろうに見えて、波間の木の葉のように頼りなげ。けれども波をいくつもつつんだ浪のようにひろく […]
2018年5月26日 / 最終更新日時 : 2018年5月25日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 星の涙 星の涙 瞳から海が溢れた。 溢れた海は足元の海に落ちて、大いなる海の一つとなった。 母なる海は、海を流し続ける娘を優しく抱いて、まるで赤児をあやすように、横たわった彼女の身体を揺らした。 波の音は子守唄だ。 宇宙そらには […]
2018年5月25日 / 最終更新日時 : 2018年5月24日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 女、三十 海への小径、と看板の文字が目に入る。本当は菜の花を見に車で来たはずなのに、足は自然のそちらへ向かった。菜の花も海も近所にあるというのに、わざわざ車で二時間かけて来た。菜の花はどこも眩しい黄色で、海も変わらず海なのだろう。 […]
2018年5月25日 / 最終更新日時 : 2018年5月24日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 猫待ち男子、漁港へ行く 俺は都内の庭付きマンションの一階に住んでいる。日当たりの良い南向きのテラスと四畳半の専用庭。奥行き約2メートルの庭に植えた芝生は今日もふかふかだ。 だが俺はキャンプの趣味があるわけでも、マンションのケチな駐輪場から追 […]
2018年5月25日 / 最終更新日時 : 2018年5月24日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 風の少年 浜名湖に面した蜜柑山の斜面。ふんわりと甘酸っぱい香りに包まれながら、天浜は独り、湖を眺めていた。 戦前に生まれた天浜。沿線の人々に望まれて作った国鉄生まれの彼も、今は第3セクター鉄道として沿線の人々を運び続けている。 […]
2018年5月24日 / 最終更新日時 : 2018年5月23日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 ホマレ その日も少年たちは連れ立って釣りに出掛けていた。皆それぞれに自分専用の小舟を出し、思い思いの場所で釣り糸を垂らしては釣り上げた魚の大小や珍しさを競って楽しんでいた。 彼らにとって朝父親たちと漁に出る海と昼過ぎに友人た […]
2018年5月24日 / 最終更新日時 : 2018年5月23日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 歌声 鳴きとよむ潮が、くりかえしくりかえし、津に寄せては砕け、暗いみなぞこに引いてゆく。 遠くへ呼びかけるような海鳥の声、絶えず吹き付けるつめたい風――風は、夜と昼では、ちがう方角からやってくる。 難波なにわの津から見 […]