2016年9月12日 / 最終更新日時 : 2016年9月11日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 水無月更紗の愚か まず、はじめに、机の上のものを全て薙ぎ払った。そうして綺麗になった机の上に今年に入って一度も使っていなかったノートパソコンを置いてスイッチを入れる。パソコンは命をえたように静かにエンジンを鳴らし起動する。机の上のあった […]
2016年9月11日 / 最終更新日時 : 2016年9月11日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 恋し風が吹いた日に 十月の始めだというのに今夜はやけに肌寒く、とてもじゃないが家まで気力が持ちそうもなかったので、立ち寄る先を探すことにした。職場から駅までの帰路を分断する甲州街道の信号待ちをしていると、冷たい北風に煽られ、思わず風上に背 […]
2016年9月11日 / 最終更新日時 : 2016年9月11日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 蜜月睦言 笑えない夜が続いている。 港町にある、安普請の木賃宿。寝心地の悪い硬いベットに、今日も少女は俺を誘い込む。 「このお布団より、貴方の胸の方が心地よいですから」 そう言って俺に腕枕を強要し、ピタリと身体をすり寄せてく […]
2016年9月11日 / 最終更新日時 : 2016年9月11日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 名月-meigetsu- 蔵を改造した書庫には、たくさんの本棚と共に畳が敷かれた一角がある。そこには空になった酒瓶が何本も転がっており、天窓から差し込む月灯りが淡く反射していた。 名月なつきは手にした和綴じの本を眺めながら、慎重に紙を捲った。 […]
2016年9月11日 / 最終更新日時 : 2016年9月11日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 とある喫茶店の新メニュー開発秘話 「駄目だこれじゃ。うーん、何か求めているのと違うんだよな」 喫茶店の看板娘、織部茶々良おりべささらは一人で唸りながら小皿に残っていたアイスを一気に食べ終えた。 「痛っ! ……ふぅ、新メニュー考えるのも楽じゃないな」 […]
2016年9月11日 / 最終更新日時 : 2016年9月10日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 甘んじて、逸脱 昏くらく、深く。軋んで、泣くような、それでいて烈しく響く音が、世界の終わりに奏でられる地鳴りのように、城を震わせていた。 重い鍵盤をしなやかに長い指先が沈めている。滑らかに白黒の盤上を走り、それでいて激しい感情の起伏 […]
2016年9月10日 / 最終更新日時 : 2016年9月9日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 なごみ古書店 古書っぽい香りをまとわせてるねこを毎日店から追い出している 家にいつくねこのようだね古書店に似合わぬこどもも毎日来ている もののけのような姿で倉庫から出てきた恋に関 […]
2016年9月10日 / 最終更新日時 : 2016年9月9日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 付喪神の見る夢 八月十三日、形だけでもお盆を迎えようと精霊棚が作られた。精霊馬が飾られ、夕刻にはおがらを焚いて迎え火もした。朱く染まった空に煙がのぼっていくのを見て、なんだか寂しいなと大和守安定は思う。 「お盆って、こんなんだったっけ […]
2016年9月10日 / 最終更新日時 : 2016年9月9日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 姫たち(『創月紀 ~ツクヨミ異聞~』より) 薄い産毛だけをまとった、小さな人の原型が、白い衣きぬに包まれて眠っている。「愛らしい」と褒めそやされるそれが、果たして本当に可愛く、いとおしいものなのか、子供のいない立花姫には判別ができない。けれど、そんな赤子に向けら […]
2016年9月10日 / 最終更新日時 : 2016年9月9日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 圓谷古道具店 まずはじめに思ったのは、『あ、若い』だった。 「一枚」 和服美人と聞いたはずだが、その表現を使うには随分とあどけない。どう見ても十やそこらで、女の子と言ったほうが適切ではないか。 「二枚」 少女は数える。傍らに積み […]