2016年9月5日 / 最終更新日時 : 2016年9月4日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 きみのしかく 「ほほう、なるほど」 探偵とおぼしき男は白い手袋をつけルーペを取り出した。 「なるほど確かに何もない。つまりこの中にあったはずの大切なものを何者かに奪われからっぽにされたということですね」 乃木家の大広間。ここにはこ […]
2016年9月4日 / 最終更新日時 : 2016年9月3日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 秋の日に 家主である六葉が仕事で不在のため、日和ひのわは一人で散歩に出かけた。階をおりて、ここ最近で慣れてきた道を行く。 灰がちな、もつれた髪は、鬼神か何かのようにも見えるらしくて、ときどき人がぎょっとする。でも、日和がきょと […]
2016年9月4日 / 最終更新日時 : 2016年9月3日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 わ 確かに、このくらいの背丈で、多分十歳くらいの日本人の女の子だと言った。だが、探しているのは今目の前にいる少女ではない。 どうしたものか。出会い頭はきょとんとしていた顔を、子どもらしい笑顔にすげ替えた少女。彼女はただそ […]
2016年9月4日 / 最終更新日時 : 2016年9月3日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 月食み この世には、女を食む鬼がいるという。陽光に照りし白亜の絹糸、焔の瞳を持つ鬼。 かの者に心を許してはならぬ。心を許したら最後、己がままではいられぬとて。 くわばら、くわばら……。 《一》 からからと風車を回しながら […]
2016年9月4日 / 最終更新日時 : 2016年9月3日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 遠く離れて大和をおもう 水面を滑るような静かな足取りで、膳を捧げ持つ媼が来るのが見えた。しなやかな水鳥に似て、裳裾もすそはかすかな揺らぎを見せるだけである、膳にはこの地の産物であろう魚や若布、野菜を用いた品々が並んでいて、かつての京みやこでの […]
2016年9月4日 / 最終更新日時 : 2016年9月3日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 泣草図譜やまばと編(アンソロ版) ころころと咲くえのころに励まされ 行く野良猫は濃きかげを引く 干からびた世界の隅で葉鶏頭はげいとう 胸のうちを曝さらけて立ちぬ 群れ鳥の主従争う喧噪を 飲み込んでなお平たいらかに芒すすき 燃え尽きた炎の痕あとをたかだかと […]
2016年9月3日 / 最終更新日時 : 2016年9月3日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 青空のつくりかた 一生忘れない。と、言ったら大袈裟だろう。けれどもその一言に相応しい、青い夏の日の放課後だった。 「今週の当番は霧澤か。ちょうど良かった、手伝って欲しいことがあるんだけど」 決して低くも高くもない、耳触りのいい落ち着い […]
2016年9月3日 / 最終更新日時 : 2016年9月2日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 和服を着たベルギーの少女 「トラジローと呼んでくれ」 彼はそう言い、笑った。 名前は児島虎次郎。日本人の画家。 名のある存在らしいが、ベルギーの美術学校に西洋画を学びに来ていた。 私はモデルとして雇われた。 何年か前にパリで行われた万国 […]
2016年9月3日 / 最終更新日時 : 2016年10月27日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 団子と恋 和菓子を食べている。 常弘つねひろと食べている。 京子はあんみつを食べていて、常弘は焼いた団子にたっぷりの蜜をかけたものを食べている。 はぁと溜息をつくと、常弘は京子を不思議そうに見た。 「どうしたの?」 「いや […]
2016年9月3日 / 最終更新日時 : 2016年9月2日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 ニンジンサラダを和えれば 智ともの休日は、おおよそキッチンの中で過ごす事が多い。 仕事の時よりも少しだけ遅く起き、洗濯物を洗濯機へ投げ込んだ後、一人で朝食を食べる。平日休みの智と違い、土日祝日休みの同居人は朝が早いので、智だけ休みの時は朝食を […]