出雲残照


戦乱の大陸を捨てて海に漕ぎ出した張旦は、東海の倭国に辿り着く。そこで彼が出会ったのは聡明な王「イズモタケル」だった。彼の治めるイズモの地で、張旦は平安な暮らしを手に入れるが、しかし、そのイズモにも戦火が迫る。大軍を率いてやってきたのはもう一人の「タケル」――ヤマトの皇子「ヤマトタケル」だった。

サイトで公開中の表題作に加え、web拍手で限定公開した続編『それからのチタリ』、さらには、神功皇后の新羅征討までの数日間を描いた書き下ろしの新作『息長帯比売』も収録。

(創作文芸見本誌会場HappyReading より転載)

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青墓


 嵯峨・清涼寺の僧である光陰は、知人の供養のために美濃国野間庄内海を目指して中山道を旅していた。しかし、老曾の森を越えたところで夜になり、その日の宿に困っていると、そこに不思議な女性が現れる。
 その女性は盲目であった。琵琶をかき抱き、白い小袖をかぶり、童女に荷車を牽かせて夜道を行く、その奇妙な風体に光陰は恐れを抱くが、彼女は宿のない光陰を哀れに思い、光陰を青墓の遊女宿・万屋へと案内する。
 この万屋こそ、青墓宿一の遊女宿であり、この盲目の美女こそ海道一の遊女と称される万屋抱えの遊女・獅子吼御前だった。  光陰はその晩を万屋で明かすことになるが、深夜も過ぎると夢うつつのあいまに次々と怪異に見舞われる。暗い廊下を行き交う武者の影や、馬の嘶きに光陰は翻弄され、ついには何者かに矢をいかけられて九死に一生を得る。
 光陰は、謎の美女・獅子吼御前の正体を明かそうとするが、しかし、その獅子吼の手によって思いがけない真実が明かされる。光陰が何故この青墓という土地に導かれたのか――、中世の因果が描かれる。
(文学フリマウィキより引用)

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